AFTER ABDUCTION ☆
身を包む低いエンジン音。
ゆったりとしたカーシートから外を望めば、俺の住んでる地域から離れていってるのが分かった。 そんでもって右には金髪の見慣れた男。 何なんですかこの状況。 「なんで俺アンタの車に乗せられてんの。」 「そりゃあキミがアタシの前を通りかかったからっスね。」 「アンタは自分の前を通った生徒全員を誘拐するつもりか!?」 「やだなぁ黒崎サン以外にこんなことするわけありませんよ。」 ちょうど赤信号で停車してこちらを向いた男はニッコリ笑ってそう言ってのけた。 この男の名は浦原喜助。 うちの高校の化学教師でしかもクラスの副担だ。 そんでもって。 「明日はせっかくのお休みなんですから恋人とゆっくり過ごしてくださいな。」 俺の、彼氏。 本日は金曜日。 どんなことをして土日を謳歌してやろうと考えていた俺は、現在、問答無用で恋人に誘拐されていた。 恋人に誘拐されるってアリかよ・・・・・・って、この男なら有り得るか。 あぁもう、しょうがない。 「・・・・・・親父に連絡しとく。」 「ありがとうございますv」 嬉しそうな横顔に俺は一つ溜息を零す。 ケータイを取り出し、数回コール。 電話に出た妹に今日は帰らないと告げて、俺は再発進した車の中でもう少し微睡むことにした。 「黒崎サン、着きましたよ。・・・教材を運ばなきゃいけないので先に行っといてくださいね。」 「ん〜わかった。」 車が良いのか操縦者の腕が良いのか(たぶんどちらも良いんだろうけど)、気持ちよく寝入ってしまっていた俺はゆさゆさと揺り動かされて目を開けた。 浦原の声に半覚醒のままそう告げて、助手席から外へと出る。 ・・・・・・眠い。 些かおぼつかない足取りで駐車場を抜け、マンションの入り口へ。 自分の家でもないのに覚えてしまった暗証番号を入力して中へ入り、ロビーを抜けてエレベーターに乗った。 ポーンと耳に優しい電子音がして目的の階に着く。 そこからまたフラフラと歩いて浦原の住んでる部屋に到着。 鞄から合鍵を取り出し、俺は中に入った。 そのまま一直線に向かう先は―――・・・ * * * * * 「黒崎サーン。遅くなりましたぁ・・・って、アレ?寝ちゃってます?」 遅れて部屋に入っていくと黒崎サンはベッドの上ですうすうと寝息を立てていた。 寝室に続くドアを開けっ放しにしたままベッドに倒れ込んだみたい。 いつも寄せられている眉間の皺ものこの時ばかりは緩和されて年相応のあどけなさが覗く。 「車の魔力っスかねぇ。・・・それともそんなに無防備になるくらいアタシのこと信用してくれてるの?」 自分で言って苦笑する。 ベッドに腰掛け、さらりとオレンジ色の前髪を梳いた。 すると黒崎サンは「ん・・・」と吐息を漏らし、うっすらと目を開く。 「眠いですか?」 「ぅん。ねむ・・・」 そう言って黒崎サンったらぎゅうっと枕を抱きしめてそこに顔を押し付けてる。 どうやら相当眠くなっちゃったみたいっスねぇ。 せっかく黒崎サンが居るのに一人で何かするのもどうかなぁと思って一瞬どうしようか考えてみる。 そして。 「ご一緒させていただけません?」 「・・・ダメ。狭くなる。」 「そんな事言わずに・・・ね?一護。」 枕に押し付けている所為でくぐもった声になってる黒崎サンに向かってワザと名前を呼んでみた。 「・・・・・・一護?」 耳元で吐息に混ぜてもう一度呼べば、オレンジ色の髪から覗く耳が真っ赤。 クスリと笑ってアタシはスーツの上着を脱ぎ、ネクタイも解いて、それらをまとめてベッドの脇に落とす。 「一護、アタシも隣に寝かせて?」 髪を梳きながら言えば、今度はもぞもぞと動いて黒崎サンが人一人分のスペースを空けてくれる。 相変わらず赤いままの耳にそっと軽いキスを落として、アタシは空いた所に体を潜り込ませた。 「おやすみ、一護。」 少し遅めの午睡をキミに。 153000HITを踏んでくださった緋月詩遠様に捧げます。 浦原先生×高校生一護(「AFTER SCHOOL !?」設定)ということでしたが ご希望に副えているでしょうか。 返品・交換はいつでも受け付けておりますので!(笑) この度は153000HITありがとうございました! |