幸せの条件
「おはようございます黒崎サンところでどうしてこんな所でお昼寝なんかしてらっしゃるんスかじゃなくてアタシの部屋で気持ちよく寝ていただけるのは嬉しいんスけどなにもアタシ以外の他人と一緒に寝るこたぁないんじゃないっスか?」
「・・・・・・・・・・・・スゴイな。お前のノンブレス。」 目覚めれば目の前に顔、腹の上には黒猫が一匹。 視点を変え、頭の横に手をついて逆方向からこちらを見下ろしてくる月色の髪の男に一護はポツリと呟いた。 「うむ。喜助は昔からノンブレスに関しては病的に上手かったからのう。」 「・・・うわ、ちょっと嫌かも。」 「夜一サン、変なこと言わないでください。」 夜一は右の前足をぺろりとひと舐めし、一護は眉間の皺を深め、浦原は半眼に。 起き上がる一護にあわせて夜一が畳の上に着地する。 そして畳に手をついていた一護の腕へスルリとそのビロードのような毛並みを擦り付けた。 一護自身はそのことに対し特に反応はしなかったのだが――― 「ななななな、なにやってるんスか夜一サン!?」 それを見た浦原はあわてて一護を腕の中へ。 「おーい、浦原。アンタいきなり何やってんだよ・・・てか、降ろせ?」 「ダメっスよ。これ以上夜一サンにニオイ付けされるのは嫌ですから。」 「アンタが?」 「そう。アタシが。」 見上げる瞳が瞬いて、見下ろす瞳が肯定を示す。 すると少年は「ふむ」と頷いて、それから二人の様子を面白くなさそうに見ていた黒猫へと視線を向けた。 「つーわけで夜一さん、今日はこれで。」 「・・・仕方ないのう。」 わざとらしく溜息をついてくれるその姿に一護は苦笑。 「悪ィ。ワガママな恋人を持つと苦労すンだよな。」 「いや・・・ではな。一護。」 ヒラリと身を翻し、夜一は庭の方に降り立つ。 素早く植わってあった木々に足をかけ、彼女の姿は塀の向こう側へと消えた。 「・・・・・・で、そろそろ離してくんね?」 「真顔でそう平然と言われちゃうとちょっと傷つきますね・・・」 「こう言うのもなんだが慣れだな。慣れ。さすがに免疫つくから。」 口角を僅かに上げて笑う一護に浦原もそうして笑い返す。 「はーい。それじゃあこれからお風呂に行くっスよ。」 「嫌。」 「即答!?」 「面倒じゃん。つーかなんで?」 体に回された腕をぺちぺちと叩きながら、一護。 すると浦原は不服そうに「だってー」と口を開く。 「黒崎サン、夜一サンにニオイ付けされたでしょ。」 「・・・へ?」 「ホラ、さっき。」 起き上がる一護にあわせて夜一が畳の上に着地する。 そして畳に手をついていた一護の腕へスルリとそのビロードのような毛並みを擦り付けた。 一護自身はそのことに対し特に反応はしなかったのだが――― 「ななななな、なにやってるんスか夜一サン!?」 「ああ。あれか。」 「はーい。ということでお風呂場へ直行〜!」 ぽむ、と両手を打ち合わせた一護を抱え、浦原はニコリと笑って歩き出す。 「いやいやいや。何でそうなるっ!?」 慌てて一護は浦原の腕から脱出しようとするが、そう簡単に逃げられるはずもない。 それどころかゾワリと何かが背筋を這い上がるような寒気がして、恐る恐る浦原の顔を見上げてみれば・・・ 「おや、黒崎サン。アタシの前で他の誰かのシルシを残しておくつもりで・・・?」 「・・・すみません。お風呂お借りします。」 表面上は笑顔。ただし常より低くなった声で囁かれ、一護はやむなく大人しくなった。 * * * * * ぴちょん、と音を立てて水滴が浴槽に張られたお湯へと落ちる。 雫が落ちた辺りのお湯を掬って手の平の間から零れ落ちるそれを眺めつつ、一護はコテンと背後の人物の肩口へと頭を預けた。 「くっそー・・・結局、風呂まで一緒に入りやがって。」 「だってアタシは黒崎サンの"恋人"ですし?」 クスリ、と。 浴槽内で一護を後ろから抱きしめるような格好でいた浦原はそのオレンジ色の髪を指で摘まみ、弄ぶ。 「それを言うな、それを。物の弾みだろうが。」 「それでも、黒崎サンって滅多にそういう事言ってくれないじゃないスかー。」 「・・・悪かったな。」 「いいえ。全く。」 体が温まった所為か、それとも照れているのか。目元をほんのりと赤く染め、一護はぶっきらぼうに呟やく。 そんな一護の髪を弄る手はそのままに、浦原はクスクスと笑った。 どこから見ても上機嫌。 物の弾みだろうが何だろうが最愛の少年から滅多に聞けない言葉を聞け、さらにはこうして(脱衣所で少し揉めたが)共に風呂にも入っているのだから当然と言えば当然か。 何だかんだ言いつつ今も大人しく腕の中に納まってくれている少年に笑みを深める。 浦原はオレンジ色の髪から手を離し、その代わりとでも言うように一護の首筋に顔を埋めた。 「・・・っ!」 チクリとした痛みを覚え、一護が吐息を漏らす。 「な・・・何すんだよ!」 首を目いっぱい後ろに回して非難。 しかし一護が視界の端に捉えたのは楽しそうな浦原の顔。 蕩けそうな甘い表情に一護も観念するしかなかった。 * * * * * 日も暮れ夕食時になった頃、外で暇を潰していた夜一が帰ってきてみれば、浦原の部屋に二人分の気配。 そろそろ門限である午後七時を越えてしまうにも関わらず一護は此処に残っているかと思い部屋に近づくが、話し声どころか物音すら殆どない。 開いた襖の隙間からスルリと体を滑り込ませると、部屋の主が驚くほど穏やかな表情で、彼に抱かれたまま眠る少年を見つめていた。 浦原と一護。 共に濃い青色の浴衣を着込み(というよりも一護が僅かばかり服に呑まれていることから見て、彼用に誂えられた物ではなく浦原の物を借りているだけだろう)、いかにも風呂上りですといった様子に夜一はそっと苦笑。 足音を立てることも無く浦原に近寄って一護を起こさぬ程度に話しかける。 「よう眠っておるようじゃのう。まったく・・・儂の居らぬ間にどんな無体を働いたことやら。」 「あらあら。そんなこと仰います?」 膝の上に座り肩口に頭を預けて眠る一護の髪を梳きながら浦原は楽しげにそう返す。 細められた双眸から覗くのは慈愛の色。 昔、自分達が居たあの場所では決して見ることの叶わなかったそれに、夜一は驚き、そして幸福を覚えた。 「喜助。・・・おぬし、幸せか?」 静かに落とされた問いに浦原が笑う。 「此の上無く。」 それはそれは柔らかに。 102000HITを踏んでくださったよっしい小野瀬様に捧げます。 すみません。 恐ろしいほど遅くなった上にあんまりイチャイチャしてナイです・・・(汗) え〜気を取り直して、102000HITありがとうございました!! 少しでもご希望に副えていることを願って、このお話を捧げたいと思います。 そして、これからもどうぞよろしくお願いいたします!! |