AFTER SCHOOL !?





「黒崎ー。お前、副担から呼び出しされてたぞ。」


ホームルームも終わって帰ろうと鞄を持ち上げれば、突然かけられた担任の声。

って言うより、呼び出しってなんだよ。呼び出しって。
そう思いながら、心中に現れた呆れ・・のためか、僅かに眉間の皺を増やして「わかりました。」とだけ返した。


一緒に帰るはずだった友人達に断りを入れ、それから玄関とは逆の方向に歩みを進める。

自分たちのクラスの副担は化学担当の教員だ。
この高校では各教科の教員ごとに専用の部屋が与えられているから、 ふつう用があるなら職員室ではなくそちらを訪ねることになっている。
今俺が向かっている副担がいる部屋は、他の理科担当の教員――生物とか物理、そして副担以外の化学担当者――も
一緒に使っているかなり広めの空間となっていて、確か奥には小さな応接セットの様な物まであったはず。

ふとそんなことを思い出しながら、俺は渡り廊下を進み、教室がある棟とは別の棟に移ってそれから階段を上った。
階段を上りきって右に曲がり、そのまま進んで到着。
二階の奥。
そこが化学実験室になっていて、隣が理科職員室という名の目的地だ。

ドアの前に立ってコンコンとノックをし、一呼吸置いて向こう側に声をかける。

「失礼します。一年の黒崎です。」
「どうぞ。」

すぐさま返ってきた言葉に微かな頭痛を覚えつつ、俺はノブに手をかけ部屋に一歩踏み込んだ。

「・・・浦原先生、お呼びですか?」

こちらを見て微笑んでいたのは金髪碧眼銀縁眼鏡に白衣という格好の化学教師兼ウチの副担。
名を、浦原喜助という。
そして―――


「ヤだなぁ黒崎サンったら。恋人なんだからいつも通り呼んで下さいな。
それに“先生”だなんてどっかの危ないプレイみたいっスよv」


と、頭を抱えたくなるような台詞を吐きつつも教師なんて職についているこの阿呆。
実は俺と恋仲だったりするわけなのだ。

「頭痛くなってきた・・・」

せっかくの見た目を台無しにするような今の男の様子にそう呟いて、
俺はついたての向こう側から顔を出している浦原――つまりミニ応接セットのソファに座っている状態だ――に近づいた。

「コラ。担任に呼び出しさせんなよ、副担。職権乱用だ。」

座ったままの浦原の正面に立ち、呆れた調子で言う。
しかし当の本人といえば。

「こんな時こそ教師という立場を利用しなくてどうするんスか。
今ここの人たちはみんな出払ってるんですよ?せっかく黒崎サンと二人きりになれるチャンスだってのに。」

当然だろうと言わんばかりの態度。
それに対して俺は大げさに溜息をついた。

「ンなのアンタの家に行けばいつでもなれるだろ。」
「わー。黒崎サンったら言ってることが大胆。」
「っ・・・うるせぇよ。」

指摘されて流石にそうかもと思ったりもするが、だからと言って素直に頷けるわけもなく、ぶっきらぼうに短く返す。

「顔真っ赤ですよ。」
「言うな。わかってるから。」

口はそうでもないのだが、どうやら俺の体は随分と素直らしい。
言ってしまったことの意味を理解すれば、あっという間に顔に熱が集まった。
少しでも冷やせまいかと手の甲を頬に当ててみるが、それが余計に顔の熱さを明確にする。

と、気づけば浦原がついたての向こう―――いや、この部屋の扉の向こう側に視線をやっていた。

「おい、浦原。どうかし・・・!?」

問いかけの言葉は中途半端に手のひらで防がれて、そのまま力強く抱き込まれる。
突然のことに焦って浦原を睨みつければ、ついたての向こうで扉の開く音がして。


「あれ?誰もいないのかな。」

聞こえてきたのは物理担当の浮竹十四郎先生の声。
若いくせに長い髪は真っ白で、さらには病気がちなため授業は他の教員に任せることが多いが、
とても気さくで良い先生である。

どうやら今日は約一週間ぶりに学校へ復帰できたようで、ここへ来たのは休んでいた間の書類整理が目的らしい。
静かにその様子を気配で感じていると、スッと口を塞いでいた手が離された。

(おい、どうすんだよ。誰もいないはずじゃなかったのか。)
(まさか来るとは思ってなかったんスよ。)

こちらは隠れているわけだから声を聞かれないようにと、ほとんど目と口パクだけで会話。
しかしどうすると問うても結局は浮竹先生が出て行くまで隠れ続けるしかないので、
俺は少しでも楽な体勢でいられるようにと、俺を抱え込んでいる浦原に体重を預ける。
浦原もそれを感じたようで、より深く抱きこまれる俺の体。

浮竹先生からここまではかなり距離があるし気づかれる可能性もほとんどないだろう。
そう思いながらじっと待っていると腰に回された手が奇妙な動きをしだした。

「・・・っ」

ゾワリと慣れた感覚が肌の表面をすべる。
思わず短く呼気が漏れて目の前にあった白衣の裾をぎゅっと握り締めた。

一山越えて余裕を取り戻した俺は見上げた先で楽しそうに笑っている翡翠を睨みつける。

(何してくれてんだよ!バレるだろうが!!)
(アタシはバレても構いませんけどね?)
(なっ・・・!)

クスリと微笑む浦原に俺は絶句。

こんなのがバレたら俺もアンタこの学校辞めなきゃいけなくなるってのに!
まだ俺は良い。未成年だし、それに他の高校を探すことだって出来る。
だが浦原は違う。バッチリ名前も報道されかねないし新しい仕事だって見つけにくくなる。
そこんとこ分かって言ってんのか!?
って、あぁもう!
余計に手の動きが活発になりやがった!


「・・・ぁ」
「ん?今何か聞こえたような。」

マズい。

脇腹を撫ぜる手が徐々に上がってきて、声を抑えなくてはいけないのに思わず漏れた吐息。
必死に唇を噛んで堪えようとするが、先程のがどうやら聞こえてしまったようだ。

心拍数が上がり俺は身を硬くした。



「・・・・・・・・・・・・気のせいか。」

・・・え?


どうやら大丈夫だったらしい。
呟きの後、がさごそと書類を鞄にしまう音がして、そうして浮竹先生の気配はこの部屋からなくなった。
ほっと全身の緊張を解き、俺は浦原の白衣に顔を埋める。

「この阿呆。」
「阿呆って・・・ヒドイっスよ。」
「テメー何してやがんだよ。」
「えー?何ってナニに決まってるじゃないっスかv」
「阿呆。馬鹿。まぬけ。このエロ教師め・・・!」

ああくそっ!
コイツのせいで体が熱い。

俺は顔を上げ、吐息が感じられる距離で翡翠と視線を交差させた。



「熱い。責任取れ。」



その言葉に一瞬キョトンとした浦原は、続いてニヤリと悪質な笑みを浮かべ――――――キス。
軽くなされたそれの後、返ってきたのは蕩けそうに甘い声。

「仰せのままに。」

恭しく取られた右手の甲に再度キスが送られた。








『Rhapsody』の満月流留様に捧げます。浦原先生×高校生一護。
相互記念として書かせて頂いたのですが・・・リク達成になってますか?
返品交換はいつでも受付中でございます!
それでは改めまして。
満月様、この度は相互リンクありがとうございましたv