気持ちも、言葉も、行為も・・・
それは俺にとって
嫌悪を催すものでしかないのだ。





Bloody Kiss





「キモチワルイ。」




眼前に迫ったその顔に向かって、俺は文字通り言葉を吐いた。
ピクリと頬に添えられていた手が動き、次の瞬間襟ぐりを掴み挙げられ体が宙に浮く。

「もう一度言ってごらんなさい。」

ひょろっとした見た目からは考えられないような力で俺を持ち上げたまま
下から睨みつけてくる翡翠色の瞳。
怒りによるものか、はたまた別の何かのためか、震える声音で静かに告げてくる。

だから、遠慮せずに俺は言ってやった。


「キモチワルイんだよ。」


ニヤリと見下げれば、さっと朱に染まる顔。
あぁ怒った。
そう思ったのと同時。
そのまま勢い良く手加減無しに投げ出され、背中からまともに壁にぶつかる。
どんっと鈍い音がして、肺から鋭く呼気が漏れた。
咳き込む俺に影が重なり、暗くなった視界に顔を上げると
電灯の逆光でよく見えない表情で立つウラハラキスケの姿。

「何・・・ホンキになってんだよ。ばっかじゃねぇの?」

ゼイゼイと息をつきながら気持ちだけでも視線を合わせる。
まるで、逸らせば負けだと言うように。

「テメーが俺にキスしようなんざ、気持ち悪いにも程が」

ある・と最後まで言い切る前に右頬に酷く重い痛みが走った。
殴られたのだ。思い切り。
拳を握ったコイツの右手で左から右へとまっすぐに。

「っ・・・ヤな大人。」

口を開けば口端に鋭い痛み。
どうやら切ってしまったらしい。

「キミも。相当に嫌な子供ですね。」
「黙れ変態。その子供にキスしようとしたのはテメーじゃねぇか。」
「良く回る口っスねぇ。結構痛いでしょうに。」
「慣れてるんでね。」

喋るたびにピリッと痛む傷口に苛立ちが募る。
背中と頬の鈍痛も癇に障って仕方ない。

くそっ・・・遊子達にどう言い訳すりゃあいいんだよ。

イライラ、イライラと目に見える箇所に作られた傷に更に腹を立てる。
あの優しすぎる妹達がこの傷――とくに先程作られた青紫色になっているだろうアザ――を見ればどう思うか・・・
なんてことを考えてしまう。
大事な家族に心配は掛けたくない。
しかも、こんな男のせいで。


ふざけるなフザケルナふざけるなフザケルナふざけるなフザケルナふざけるな・・・・・・


まるで呪詛のように思考をループする単語。

「キミがこんな子供だなんて知りませんでしたよ。もうちょっと可愛らしいものだと思ってたのに。」
「生憎アンタみたいな大人に本性曝すつもりはなかったんでね。」
「それが今更?」
「テメーに触れられるよりはマシだろ。」
「本当に可愛げのない・・・」
「最高の誉め言葉だ。」

吐き捨てれば、更に襲ってってきた衝撃。

「っぁ・・・」

鳩尾に思いっきり入った打撃に吐き気を催す。
逆流するものを気力だけで何とか押し留め、力なく壁に寄りかかったまま、
膝をついて視線を合わせてくる男を睨みつけた。

「好きだと言ってあげたのに。」
「虫唾が走るな。」

あぁコイツ、目がヤバイ。もうイっちゃってる。
それともコイツって実はサドだったのか。
ホント、ヤになるね。



「触るな。」

頬に手を添えられてそのまま親指が唇に触れていた。
なぞるようにゆっくりとした動作で。

「触んじゃねぇってんだよ、変態が・・・っ!」

大声を上げて相手を睨みつけた。
ただし口を大きく開けすぎたせいで傷口が広がり顎に嫌なものを感じる。
―――生暖かい血が伝う感触。

「くそっ・・・」

小さく毒づく。
と、再び指の感触が脳に伝えられた。
血を流す口端を出発点にして、まるで紅を差すように下唇をなぞられている。
何度も。何度も。

「触るな。退けろ。気持ち悪い。・・・っこのド腐れゲタ帽子が!」

言っても、目の前の野郎はほとんど無表情のまま同じことを繰り返す。
と、その手が後頭部に回った。
頭が固定される。
逆の手で顎を捕らえられ、これからされる事が嫌でもわかってしまった。

「ヤメロ。」

散々痛めつけられたためか、思うように体が動かない。
この無礼かつ嫌悪を催す行為に口だけで応戦するがそれもほとんど意味が無いようだ。


「来るな。」

「気持ち悪い。」

「触るな。」

「放せ。」

「アンタなんか大っ」


嫌いだと紡ぐはずの口は閉じられ、言葉の抵抗むなしく俺はくちづけられていた。
ただし、口唇のほんの端っこに。







「・・・・・・・・・・・・・・・」







「・・・・・・・・・・・・はっ」



一度始めてしまえば抑えることなど出来なかった。
衝動に任せて「はははっ」と嗤う。

なんだ、ほんとダメじゃんコイツ。
キスしたいなんて言っときながらまともに触れることすら出来ていない。
俺に、言葉で拒絶されただけで。



「それで終わり?」



弱いね。
大人なんて。

何が元死神だ。
何が元隊長だ。

馬鹿みたい。







「根性無いね。アンタ。」


壮絶に、嗤う。








相互記念として『心不在焉、視而不見。』の知音様に捧げます。
此方の話は「Sweet Kiss」とセットで。
・・・話としては全くの別ものなのですが(ぇ)
足して割れば何とかリクエスト達成?ということで(オイ)
返品&交換はいつでも・・・!

この度はありがとうございました!
そしてこれからもよろしくお願いします!!