ただ純粋に触れたいと思った。
その唇に。 Sweet Kiss 「なに見てんの?」 気づけば、大事な大事な少年が此方をひたと見据えて眉間に皺を刻んでいた。 琥珀色の瞳は細められた目から半分ほど覗いており、高校生とは到底思えぬような落ち着いた雰囲気を纏っている。 そんな彼―――黒崎一護が読んでいた雑誌から視線を外していたことに僅かながら驚いて、 そうして私はそんな自分に苦笑した。 へらりと笑った私を見て、彼の片眉がほんの少しだけ上がる。 「ん〜・・・特に何てこと無いんスけどね。」 「なにそれ。」 理由も無しに俺の顔見てたのか?と訊かれて、私はちょっとだけ口ごもった。 流石に言えるわけ無いかも・と。 「言っても怒りません?」 「内容によるな。」 「そりゃあそうですけど・・・」 言っても大丈夫かと思う。・・・いや。彼なら絶対怒るだろう。 口よりも手よりも先に足が出る可能性大だ。 ―――「くちづけたい」なんて思っていたと知ったら。 目の前にいる彼はとても稀有な存在で、まず一番最初に目に付くのがその霊圧だった。 白く輝くそれはまるで太陽そのもので、他を圧倒してみせる。 次に――一般人ならまずコッチに気づくだろうが――日本人とは到底思えないような橙色の髪。 いつも軽く立てられているそれは硬そうに見えて、実はとてもやわらかい。 あまり触らせてはくれないのだけれど。 それから瞳。 綺麗な琥珀色をしていて、そして時折とてつもなく深い色になる。 見ていて、飲み込まれそうになるほど。 どうやら幼少期の何かが関係しているらしいが、それは未だ詳しく教えてもらえていない。 まぁその髪色と霊圧、そして母親をなくした事から見れば一体どんな目にあってきたのかは想像に難くないが。 人間とは真に残酷なイキモノであるし。・・・子供も大人も、そして亡者も。 そんな彼に、気づけば私は大層惚れ込んでしまっていた。 そして、出来るならば時折見せるその深く悲しい色を彼の瞳に浮かばせたくはないと願ってしまった。 想いを口にした時は拒絶の言葉が恐ろしくて仕方なかったのだが、実際返ってきたのは、 「それに気づいたのってアンタが初めてだ。」 なんて、少しばかり自惚れてしまいそうな言葉だった。 まぁそれ以来、今のように私の自室で寛いでくれるような関係にはなったのだが、 如何せん、ただ私に気を許しているだけの彼とは違い、 私は彼に恋愛感情というものを持ってしまっていたので、どうしてもそういうことを考えてしまうのだ。 彼に触れたい―――と。 そしてどうやら今回は、くちづけたいと考えていたためにボーっとしすぎていたらしい。 彼が此方を見てからもずっと見つめ続けていたせいで少しばかりピンチな状態となってしまった。 「このまま言わなくても蹴るぞ。」 黙りこくった私に、彼のとある袋の紐に切れ目が入ったらしい。 今はほんの小さなそれでも放っておけば紐がぷつりと切れてしまう。 ならば言ってしまうしかないか・と私は腹を括った。 「・・・キスしたいなーって思ってたんスよ。」 言った途端、左下から迫る拳。 右手で見事なアッパーを決められて、一瞬気が遠くなった。 ・・・そういえば、彼はその経験のせいで異様に強かったりするのだ。こんな風に。 「く、黒崎サン・・・マジで痛いっス。」 「おお、悪ぃ。つい本気で・・・」 「黒崎サンの愛が痛い。」 「もういっちょいっとくか?」 だんだんと据わってきた目を見て、流石にこれ以上言うのは止しておこうと思う。 こんなにすぐさま手が出たりするのはそれはそれで彼が私に気を許しているという証であるので非常に嬉しいのだが、 一応私もマゾヒストではないので痛いのはご勘弁願いたい。 「謹んで遠慮します。」 「ったく、いきなり何言い出すかと思えば・・・」 「本気っスよ?」 「尚更タチが悪いわ。」 アホかと視線を投げかけてくる大切で愛しくて強くて美しくそして少々毒舌な少年に私は苦笑を返した。 それでも無意識に視界に納めてしまう彼の顔。 その薄い唇にくちづけたいと未だ衝動が燻ぶっているのがわかって少しばかり困ったように笑ってしまった・・・ ・・・・・・のかもしれない。 私の表情を見て彼が「あぁもう!」と苛立たしげに立ち上がり、私のすぐ目の前に来て座り込んだから。 「そんな顔すんじゃねぇよ!」 と言って。 「キス、させてください。」 「まだ言うか貴様は。」 彼の方から近寄って来てくれた事に気をよくして私はどんどん調子に乗り出す。 「言いますよ。アタシは、キミが好きすぎてしょうがないんです。」 「・・・っ」 侮蔑や嫌忌などではなく、あからさまな好意を向けられて彼は常の彼らしくなく言葉に詰まった。 しかし言葉が出ないというのなら他の何かをすれば良いということで、 せっかく近寄ってきてくれたのに彼はすくっと立ち上がってしまった。 「黒崎サン?」 「俺帰る。」 「えっ、ちょ・・・」 っと待って下さい・と繋げようとして、しかし私はそう出来なかった。 中腰と言う少々きつい体勢のまま、驚きを持ってすぐ傍の琥珀色を見つめる。 襟首をつかまれて無理矢理な感じに合わされた唇から伝わってくる熱と感触。 それが一体何なのかすぐには理解できず、しかし解ったときには既に離れてしまった後だった。 「黒崎、サン・・・?」 問いかけてもそっぽを向いたまま彼は此方を見てくれない。 ただ、やはり常の彼らしくなく、なんとその耳は確かに赤く色づいていたのだ。 「アンタだけ・・・だよ。俺のコト知ってるクセに、そういう風に言ってくれて、そういう風に接してくれんの。 だからこれは、感謝の気持ちだ。・・・・・・変に誤解すんじゃねぇぞ。」 それだけ言い残して、唖然とした私を残したまま彼は襖の向こうに消えて行った。 強くて美しくて手癖も足癖も悪くて毒舌でアタシなんかよりももっとずっと世の中を斜めに見ている彼なのに、 彼を知っている人間として私はやっぱりこう思ってしまうのだ。 「嗚呼、かわいいなァ。」 可愛い。愛おしい。大切にしたい。護りたい。 もしかすると自分なんかよりずっと強いかもしれないのに。 思考の腐り具合に呆れて笑い、私は立ち上がった。 彼の少年にもっともっと愛を囁くため。 『心不在焉、視而不見。』の知音様に捧げます。相互記念でございますv 一護(スレ)にキスしたがる浦原さん・・・如何でしたでしょうか? ・・・あれ?スレてない?(あわわ) ―――と言うことで、なにやら妙にスレまくってる一護サンのダークなお話とセットで謙譲させていただきます・・・! 返品&交換はお気軽に・・・!(痛) この度はありがとうございました! そしてこれからもよろしくお願いします!! |