こんなに美しいものを、俺は見たことが無かった。


切れ長の目に薄い口唇、スッと通った鼻梁。
完璧な配置が成されたそれらと、絹のように煌く長い髪。
均整の取れた肢体。
胸に開いた穴さえ、それを際立たせることはあっても損なうことは無い。

一目見て、欲した。
手に入れたい。俺のモノにしたい。

まるで病魔に侵されたかのように締め付けられる胸。
喪失の証しが熱を持ったかのように疼く。



「イールフォルト・・・」

口にする名の、何と甘美なことか。

「イールフォルト・・・もう絶対、何処へも行かせない。」


豪奢な椅子に彼を座らせ、後ろからその身を抱きしめる。
さらりと髪を梳き、こめかみに口づけを落とす。

虚ろな瞳は以前までの輝きを宿すことなど無くなってしまったけれど、今こうして、俺の腕の中に彼が居る。
彼を手に入れることが出来た。
失われた左腕は義手でしかないが、それ以外の全てを。

死神とグリムジョーには感謝しなくてはいけない、と思う。
彼らのお陰で俺はイールフォルトを手に入れられたのだから。

俺だけの。

口もきかない。動きもしない。
ただ力の抜けた体で椅子に座らされているだけ。

それでも、手に入ったんだ。たった一つ、切望していたもの。



抱きしめた手に触れる温度は冷たく、喜びに似ている。
必要最低限しか刻まない鼓動は緩く、切なさに似ている。



失ったはずのものを与えてくれる彼。

「イールフォルト・グランツ。」

俺の唯一。









そう。 これは、 に似ている。







D   O   L   L









陛下は素で愛とか言っちゃってもいいと思う。

(2006.03.03up)