「アレイスターの野郎、俺達が鉢合わせするように仕組んでやがったな?」
 あーあ、と酷く面倒くさそうに溜息を吐き、上条当麻は後頭部に手をやった。ガシガシと頭を掻きながら見やった先には、上条の本日の“仕事現場”となった部屋の出入り口で立ち尽くす四人の少年少女達。いずれも上条と同じ年頃―――それどころか、(一応)全員が顔見知りである。
 上条が通う高校のクラスメイト兼学生寮のお隣さん。先日、常盤台中学の某一年生が大怪我を負った一件の首謀者であるらしいレベル4の少女。夏休み最終日に上条を襲ったアステカの魔術師。そして、絶対能力進化計画のメインプランだった過去を持つ、白髪赤眼の―――。
「鈴科、そんな顔してくれるなよ」
 一方通行の誰も呼ばなくなった名前を呼びながら上条は苦笑した。そんなに上条当麻が“こちら側”だったのがショックだったのだろうか。自問し、そりゃそうだろうな、と自答する。
 上条当麻を知る彼らは皆ほぼ同じように驚愕を露わにしている。隣人たる金髪の少年が呟いた「カミやん……?」という単語は、この空間だとどこか滑稽に響いた。これまで幾度となく厄介事に巻き込んでくれたのは彼本人であるというのに、今、上条がこの場に立っているのを信じる事ができないでいるのだろう。
「……そんなに、血塗れの俺は意外だったか?」
 口の端を持ち上げ、両手をゆるく広げる。黒の学制服ではなくブラウン系の私服姿に飛び散った血痕はまだ乾いておらず、妙にその存在を主張していた。
 息を呑む一同。だがその硬直から最も早く抜け出したのは、上条が最初に名前を呼んだ少女だった。
「なンで、テメェがこンな所にいやがるッ!?」
 ベクトル操作で一気に距離を詰める一方通行。普段彼女がこんな事をしようものなら、上条は慌てふためいてなんとか右手で勢いを止める事だろう。
 しかし今は違った。
 右手を正面に掲げるのは普段の『上条当麻』と同じであったが、その時の表情は先刻から変わらず薄い笑みを象っていた。
「なんでって、そりゃあ仕事だからだよ」
 パキンッと硝子が割れるような音と共に上条は一方通行の突撃を無効化して押さえ込み、そのまま細く折れそうな白い身体を腕の中に閉じ込める。至近距離で囁くように告げる声には甘さすら含まれていた。
「鈴科はこんな俺、嫌?」
 半ば答えを予想しながら上条は問いかける。
 一方通行は、上条当麻が光の世界の住人であるからこそ、その存在を好いていたはずなのだ。しかし実際は上条も闇側の人間だった。それを知った一方通行がどう思うのか、解らない上条ではない。解らない訳ではなかったが―――。
「でも、嫌だって言ったって離してやれねーけどな」
 他の三人の目を気にした風もなく、上条は血の付いた指で眼前の白い頬を撫でる。
「……ッ」
 少女のチョーカーに付けられたスイッチは未だ能力使用モードであったが、上条の動きを拒む事ができなかった。一方通行に反射の意志が無いからではない。反射をしようとしても全て無効化されてしまっているのだ。
 なンで、と無意識に呟いた一方通行の声を拾い、上条は笑う。
「右手だけだと思ってた?」
 己の指の動きに沿って一方通行の白い頬に掠れ気味の赤いラインが走るのを上条は満足げに眺めていた。そのまま指を動かし、一方通行の顎に引っかけて持ち上げる。
 怯えた深紅の双眸が上条を見上げてた。それに微笑み返して、上条はそっと唇を近付ける。
「ザンネン、でした」






逃亡不可


(嫌がっても逃がしてやらないよ)