※「とある魔術の禁書目録」と「デュラララ!!」の世界観が混ざっています。






 開発が遅れていた東京都の西半分に作られた学園都市。超能力開発を主目的として様々な知識が集まった科学の中心地は、外の者にとってまさに非日常の象徴と言えよう。
 彼の街に住まうのは科学者、教師、そして超能力の開発対象である子供(学生)達である。そして、非日常に憧れる少年・竜ヶ峰帝人は―――
「いくら超能力者を作ろうとしてるからって、脳に電極ぶっ刺して静脈に薬を打ち込むなんて真似は遠慮しておくよ。しかもそれをやったって、まともに能力を授かれるのはごく一部。最高位の超能力者レベル5なんて……230万分の7人、だっけ?」
 よくやるよ、と池袋の街を歩きながら薄く笑った。
「ひでぇにゃー、帝人。その都市でリアルに電極ぶっ刺して薬打ち込んで、日々超能力者目指して頑張ってる奴の前で言う台詞か? それ」
「人体実験の対価で立派な能力が得られるって言うなら良いけど、血管が切れるまで踏ん張ってもスプーン一つ曲げられるかどうかじゃ笑うしかないよ。無能力者レベル0の土御門元春君」
「ははっ、辛辣」
「これがデフォルト」
 さらりと返す帝人の隣を歩くのは、黒髪黒目童顔小柄な帝人とは対照的な、金髪サングラス長身の男。その特徴だけを述べれば、池袋の住人ならば必ずと言っていいほど思い浮かべる人間がいるのだが、生憎、現在帝人と並んで歩いているのはバーテン服姿ではなく学ランの中にアロハシャツを身につけ、金色に輝くネックレスをジャラジャラとぶら下げた同じ年頃の少年だ。
 名を、土御門元春と言う。
 学園都市内の学校に通う生徒であり、つまりは超能力開発対象、言ってしまえば実験動物の一人である。しかも目覚めた能力は非常に弱い自己治癒であり、分類は最低位の無能力者レベル0
 しかしながら、たとえ無能力者であろうともその身に学園都市で培われた科学技術が施されている事に変わりはない。高い壁と遥か高くに打ち上げられた監視衛星(ただし名目上は超高性能な演算装置を打ち上げた事になっている)に内外双方からの出入を見張られ、制限される身である。
 にも拘わらず、何でもない風に学園都市の外―――池袋の街を歩いていられるのは、本来ならば非常に奇妙な、有り得ない事だった。
「……元春が普通の学園都市の生徒ならね」
「にゃ? なんか言ったか?」
「んー、スパイも大変だなって。監視衛星その他諸々の目を盗んであの壁を越えなくちゃいけないんだから」
 全くの躊躇なく帝人は『スパイ』という単語を使う。しかしそれに対して土御門が非難する事も否定する事もない。こんな雑踏の中、二人の会話の内容にわざわざ耳をそばだてる人間などいないし、また“己の情報提供元”の一人でもある帝人には、付き合い始めてすぐ土御門の立場を明かしていたのだから。
 仕事仲間(取引相手)兼友人。それが二人の関係を表す最も適切な言葉だろう。
 よって、土御門は帝人の台詞に苦笑を返す。
「だったら今度の情報料も少しは値引きして欲しいにゃー」
「それはだめ」
「にゃんで!?」
「これでも折原さんよりは大分負けてあげてるんだから」
 帝人は土御門が欲しがる類の情報ならばほぼ同レベルで売買できる人間、新宿の情報屋・折原臨也の名を出す。すると土御門はひょいと肩を竦めて「しょうがねーにゃー」と諦めたようだった。
「んじゃ、情報料はいつも通りの方法で振り込んどくぜよ」
「毎度あり。はい、これ」
 言いながら帝人が小さなメモを土御門のポケットに捩じ込む。
 これにて取引成立だ。
「この後は? 少しくらいなら街の案内とかできるけど」
「そりゃいい。お誘いに乗ってちぃと遊んでいくぜよ」
 仕事相手から友人に戻り、身長も服装も対照的な二人は人ごみの中を進む。
 途中、一本向こうの道から怒声が聞こえ、そちらに視線をやると、
「あ? 自販機が飛んで……?」
「平和島静雄さんだね。金髪サングラスで、」
「アロハ学ラン?」
 ふざけて己の胸元辺りを指差す友人に、帝人は呆れて首を横に振る。
「バーテン服。ちなみに社会人だよ」
「えっらい人間もいるもんだにゃー」
「まぁここは超能力者はいなくても、妖精とか妖刀とか喧嘩人形とかがいる街だから」
「万国人間(?)ビックリショーだにゃ」
「それ、本人達に言ったら、学園都市の方がそうだって返されるだろうけどね」
「いやいや、オレらの街も住んでみりゃ結構普通だぞ?」
「……非日常って三日で日常になるらしいよ?」
「ははっ! 違いない」
 科学と魔術の・・・双方を股にかけてスパイ活動を行う少年はそう言って笑う。そして彼の友人兼仕事相手である少年も「そうだよ」と、この日常と非日常が交じり合う街で穏やかに、いつも通りの顔で笑った。






僕らの日常的非日常







リクエストしてくださったうこぎ様に捧げます。
うこぎ様、ありがとうございました!