※帝人が何でも屋、静雄がそのパートナー。グロテスクな表現が含まれます。






(これが済んだら帝人の所に帰れる)
 そう思うと耳をつんざく醜い悲鳴も極上の音楽に聞こえてくる。
 静雄はサングラスの奥に隠れた瞳を楽しげに歪め、右足に力を込めた。断末魔の中、ボキリともグジュともつかぬ音がして、足の下にあった肉塊が陥没する。肋骨を破壊し、内蔵を引き潰し、溢れた血潮は静雄のズボンをドス黒く汚した。
 これで本日、帝人から(正確には帝人の依頼主から)頼まれた仕事は終了だ。
 一体どんな恨みがあったのか、それとも何らかのパフォーマンスなのか、とにかく悲惨な殺害現場にするようとの指示を受けていたため、薄暗い部屋は壁一面が真っ赤に染まり、両手足がもがれた者や頭部が完全に陥没した者、それから静雄の足を濡らした原因でもある胸部を破壊された者がそれぞれ転がっている。
 これら全ては静雄がやった事だった。
 いつからだろう。こんな事にも嫌悪を覚えられなくなったのは。かつては自身が所属していた『ダラーズ』に少女達を人質にするグループが存在しただけで苛立ち、そこを抜けたというのに。いつの間にか静雄自身がそれよりも惨い事を平気で行えるようになっていた。
 本当に、いつの間にそんな人間へと変化したのだろう。ただ、変化の理由だけは静雄もハッキリと理解していた。全ては帝人がいるから。竜ヶ峰帝人のパートナーとして生きるために静雄は己を変えた。時を経て今は青年となったあの少年が望むから。あの少年が力をつけるために。そのために静雄は忌み嫌う化け物じみた己の力を躊躇えなく使えるようになっていった。
 その変化を、今の静雄は全く後悔していない。三つの死体が転がる部屋で清々しい気分を味わえているのがその証拠だ。
 メールで仕事完了の連絡を入れ、静雄は惨殺現場となった部屋を出る。雑居ビルの中の一室であるそこを去り、建物の裏口から顔を出せば、すぐさま乗用車が路地裏に滑り込んできて静雄を迎え入れる。己を帝人の元へ運んでくれる車に無言で乗り込み、静雄は煙草に火をつけた。
 乗用車には運転手が一人だけで、こちらも無言を保っている。静雄を目撃した他の人間は、どこにもいない。静雄が仕事をしている最中のアリバイや事件現場に対する証拠隠滅は帝人が完璧に作ってくれているので、その表情には不安も何も無かった。ただひたすらに、この車の行き先にいる人物を脳裏に描き、うっすらと微笑みを浮かべるだけ。



* * *



 仕事を終え、シャワーで汚れを落とした静雄は、愛しい人間の腹に顔を埋めて腰に回した腕に力を込めた。
「んー? どうしたんですか、静雄さん」
 ベッドの上で上半身を起こし本を読んでいた帝人がクスクスと笑いながら言う。同じベッドに寝そべって帝人を抱きしめていた静雄は声を出して答える代わりにグリグリと頭を押しつけた。
「くすぐったいですってば」
 本を傍らに置き、帝人の細い指が押し付けられる金色の髪を梳く。柔らかな制止を受け、その感触に両目を細めながら、静雄は寝そべったまま帝人を見上げた。
「みかど」
「はい、静雄さん」
「俺はお前の役に立っているか?」
「すごく、役に立っています。今の僕は静雄さんがいなきゃこの世界で生きていけません」
「そうか!」
 帝人の返答に静雄は顔を綻ばせる。
 サングラスに遮られる事のない視界の中央で帝人の黒い瞳が優しげに微笑んでいた。それが更に静雄の気分を高揚させる。この笑顔のために自分は生きているのだと。
 彼が笑ってくれるなら、彼が必要としてくれるなら、自分は何だってしてやれる。その思いの証とでも言うように、静雄はベッドから身を起こして帝人の唇に自分のそれを寄せた。啄むように口付けていれば、そのうち誘うように薄く開かれ、隙間から舌を進入させる。帝人の腕が静雄の首の後ろに回されたのを合図に、小柄な体躯をシーツに縫い止めた。
「みかど、おれたちずっと一緒だよな?」
「勿論です。だから静雄さん、」
 細腕に力を込めてキスを強請りながら返される帝人の声を、静雄は自分が世界一の幸せ者であると確信しながら聞いた。
「これからも僕の事が大好きな静雄さんでいてくださいね」



□■□



 すごいなぁ、と帝人は思う。
 まさか自分がこんな仕事をするとは、池袋に来たばかりの高校生だった頃には考えてもみなかった。そして何より、今の自分のパートナーが『彼』である事が一番驚愕に値する。
 今の帝人の仕事は、あの情報屋・折原臨也が(趣味で)やっていた事よりも残酷な物が多い。学生時代に己の配下についたブルースクウェアや一部のダラーズメンバー、そして『彼』こと平和島静雄を中心として行うのは、人や物探し、メッセンジャー等から始まって誘拐・拷問・人殺しまで。その幅は多岐に渡り、帝人(達)はいつしか「何でも屋」と呼ばれるようになっていた。
 仕事の半分以上は『裏』に属する。これは平和島静雄が酷く嫌う部類のものだ。しかし現実として、静雄は帝人の傍にいる。―――否。帝人の傍にいるため、彼はそれらを嫌う心を麻痺させてしまった。
 静雄が帝人を選んだ事、そして静雄が帝人に選ばれるため己を大きく変えてしまった事。この事実に対し帝人が驚きを失う気配はいつまで経ってもやって来ない。帝人は自分がそこまで魅力的な人間ではないと理解していたからだ。
 しかし、そうやって謙遜や卑下由来の驚きを抱くと共に、帝人は事後、ベッドの上で静雄の金糸に指を通しながらこうも思っていた。
(楽しい)
 この状況が、仕事が、静雄の異常すぎる愛情が、それによる静雄の変化と行動が。楽しくて楽しくて仕方ない。
 だから。
(これからもずっと、僕の傍で僕を楽しませてください。静雄さん)






手を取り合って踊りましょう







リクエストしてくださった睦日様に捧げます。
睦日様、ありがとうございました!

※帝人の台詞にあった「世界」=「業界」です。