※シズちゃんのパラメータがほぼ全てMAX値越え(静雄“様”化)しています。静帝←臨になりました。






「なんだノミ蟲。手前、帝人の事が好きだったのか」
 仇敵を前にしているにも拘わらず落ち着き払った声に若干の嘲りを滲ませて、怒鳴るでもなく物を投げるでもなくいきなり殴りかかってくるでもなく、平和島静雄は折原臨也の『特別』の横に並んでうっすらと笑った。
 鉄の棒すら容易く捩じ切る手は臨也の『特別』こと竜ヶ峰帝人の頭に乗せられ、短い黒髪を優しく梳く。壊れ物を扱うように、ただしとても慣れた手つきで。帝人も帝人で全く怖がる素振りを見せない。それを当たり前のように甘受して臨也に普段通りの――非日常に対する興味と折原臨也と言う人間性に対する困惑が混ざり合った――表情を見せていた。
 場所は帝人が住むアパートの程近く。来良学園からここまで帝人について歩いてきた臨也は、視界の中に忌々しいバーテン服が入った瞬間、身ぶり手振りを交えて己が如何に人間を愛しているか語っていた口の動きを止めて剣呑に目を眇めた。しかし次の行動に移す前に横を歩いていたはずの帝人が静雄のすぐ傍へと向かってしまい―――。臨也が「帝人君?」と少年の行動に疑問の声を発した後、帝人の代わりに応えたのは天敵たる男の先述の台詞だった。
 臨也は苛立ちを双眸に宿らせつつ、動作だけは軽く何気ない風に肩を竦める。
「こんな所で待ち伏せ? しかもいきなり何を言うかと思えば……。君の名前の通り静かなご登場だった事には素直に賞賛を送ってあげるけどね、成長オメデトウ。でもそういう頭の湧いた発言はやっぱり脳味噌筋肉だからなのかな。俺はただ帝人君に、俺がどれだけ人間を愛しているか、同時に帝人君に期待しているかを語っただけだよ? それをらしくもなく盗み聞きして、俺が帝人君の事を好きだって? シズちゃんの存在ぐらい笑えない。冗談じゃないね」
 そうやって化け物の戯言を否定し、はんっと鼻を鳴らす。だが本来ならここで怒鳴り散らしすぐ傍の標識の一本や二本折ってしまうはずの静雄は、小さく笑みを重ねただけで全く動きを見せない。それどころか、
「なあ、ノミ蟲。知ってるか?」
「……?」
「他人に言われた事をすぐ否定するって時は、否定した本人がそうだと思っちまってるからなんだとよ。どっかの誰かさんが言ってたぜ」
「……ッ」
 何処かの誰か、なんて白々しい。それはかつて臨也本人が何度か口にした事のある言葉だ。しかも決まって話し相手の揚げ足を取る際に。そのような台詞をこの低脳な男に吐かれたとあっては臨也のプライドにも傷がつこうと言うもの。自分が帝人をどう想っているかはともかく、臨也は赤味がかった目で静雄を鋭く睨み付けた。
「常日頃からムカつく奴だとは思ってたけど……今日はそれもひとしおだね。低脳は低脳らしく頭の悪い発言だけしてろよ」
「そんな言い方は酷いですよ、臨也さん」
 応えたのは、帝人の声。
 非難と苦笑を混ぜ合わせて、このところ臨也が特別に目をかけている少年は穏やかに言った。
「僕も臨也さんが僕の事を好きだなんて、他の人に言われても信じられないんですけど……静雄さんがそう言うなら、そうなんだと思います」
「は?」
「だって静雄さん、凄く人の機微に敏いんですよ。僕の事も、顔見知りになってすぐ気付いちゃったみたいですし」
「君の事を……?」
 平和島静雄が他人の機微に敏いなど有り得ない。臨也が池袋に現れた時は「臭い」などと言って化け物らしい第六感を発揮させているようだが、それ以外でこの男に他人の細かい揺れを察知するだけの能は無いはずだ。にも拘わらず、帝人は静雄を敏いと言い、加えて帝人の何かにも気付いたのだと言う。
(帝人君がダラーズの創始者っていう一面を持ってる事に、シズちゃんが気付いた……?)
 その『何か』=池袋最大のカラーギャングの創始者が帝人である事、と考えた臨也は、だとしても静雄がそれを知る――または気付く――のは可笑しいと思った。そういう事は第六感ではなく臨也が扱うような情報によって導き出される類のものだからだ。
 ならば平和島静雄は一体帝人の何に気付いたと言うのか。
 その疑問を臨也は顔に出したつもりなど全く無かったのだが、
「帝人、あいつお前の事知らなかったのか?」
「知らないみたいですね。僕もあえて教えようとはしませんでしたし」
「へえ」
 そんな会話が前方で交わされる。
 聞えよがしなそれに臨也は隠す事なく舌を鳴らした。
「その言い方、腹立つなぁ。まるで俺の知らない事をシズちゃんが知ってるみたいじゃないか」
「だって本当に知らないじゃないですか。それとも臨也さん、貴方は僕の本性を知った上で、今日まで道化のような付き合いをしてきたんですか?」
「君の本性?」
「ええ」
 帝人はにこりと笑みを浮かべて、告げる。
「たとえば幼馴染兼親友に貴方がかつて何をやったのか知りながら、僕は平気な顔をして臨也さんと並んで歩けるだとか。静雄さんが高校の時からずっと続けてきた“遊び”を喜々として観覧しているだとか。……ああ、ちなみに。静雄さんの“遊び”の相手は臨也さんですからね? 貴方に自覚が無くとも、貴方の存在は充分に静雄さんを楽しませた」
「手前と違って他の人間じゃすぐ終わっちまうからな。ウサギ狩りってのは捕まえるまでの過程が面白いからやるんであって、簡単に捕らえちまったらつまんねぇだろ?」
 帝人の台詞を引き継いで静雄がニヤリと口元を歪める。
「ははっ……何、言ってんのさ。二人とも」
 親友を二の次にする少年の思考回路、静雄の“遊び”とウサギ狩りの例え話、高校の時から、それを観覧する帝人、ウサギは誰だ?、面白がる?、楽しんでいる?、本性、他人の機微に敏い、本性、本性、本性、帝人の本性、本性、本性本性本性本性本性本性本性本性―――
 よく回るはずの頭が混乱し、困惑し、ただ単語だけを意味も無く渦巻かせる。眩暈を覚えた臨也は一瞬だけふらりと体勢を崩して「え?」と短く呟いた。
「ほんと、なにそれ」
「解らないならそのままでどうぞ。そういう時は理解できないんじゃなくて理解したくないのが大抵ですから、今の貴方に何を説明しても受け入れてはくれないでしょう?」
 ねえ静雄さん、と帝人が傍らの男に同意を求める。
 すると静雄は、
「そうだな」
 頷きながら片手で帝人の身体を抱き寄せた。
「静雄さん?」
「あんまノミ蟲のことばっか見てんなよ……」
「やだなぁ。僕が見てるのはいつも静雄さんだけですよ?」
 見上げる格好の帝人は視界を埋める人物にそう言って笑いかける。
「……ッ」
 少年の言葉を聞いた瞬間、臨也はズキリと胸の奥が痛んだような気がした。ほんの僅かに奥歯が噛み締められる。するとちょうどその時、忌々しい視線がサングラス越しに臨也を射って、帝人を抱き寄せたまま静雄の口元が楽しそうに吊り上がった。
「ああ、そうだな」
 臨也に向けられた視線はすぐに外され、帝人だけを見つめる。
 穏やかな声でそう答えた静雄は残りの手で少年の顎を掬うと、他人の目があるにも拘わらず顔を近づけた。
「し、しずおさ……! 臨也さんが、」
「石ころなんざ気にするな」
「ンぅ……」
 口づけると言うよりは噛み付くに近い。荒々しいそれに間も無く帝人の膝から力が抜け、抱き寄せるための腕は支えるためのそれに変わった。
「……ふ、んん…………は、……」
 途切れ途切れに漏れ出る帝人の吐息と重なってくちゅくちゅと水音が響く。その様を目の当たりにした臨也は―――何故か、視線を逸らせない。頬を赤く染めた帝人の姿に、無意識のうちにごくりと喉が鳴る。
「ふはっ……!」
 長い口づけが終わり、解放された帝人が大きく息を吸う。それを微笑みながら眺めていた静雄は、次いでゆっくりと臨也に顔を向けると、
「折原臨也、勃ってんぞ」
「……ッ!!」
 残酷に嗤いながら、そう指摘してみせた。








リクエストしてくださったさくら☆様に捧げます。
さくら☆様、ありがとうございました!