ネタ止まり(隊長喜助×子一護)









●拾われた一護。ほのぼの系?




その日、四楓院夜一は知人の屋敷で奇妙なものを見た。

とてとて、ぱたぱたと動き駆け回る短い手足。
丸みを帯びた顔のライン。
動きに合わせて揺れるオレンジ色の髪。
髪と同じ色の睫毛に縁取られ、ぱっちりと見開かれた茶色の瞳。

まさかこの屋敷でこんな存在を見るなど思ってもみなかったため、己を茶色の瞳で珍しそうに見上げてくるその存在を呆気に取られて見つめ返しながら、夜一は屋敷の主にぼそりと告げる。

「・・・喜助。貴様この子供をどこから浚ってきた。」
「誘拐なんてしてませんからね。この子はアタシが拾ったンです。」
「うん!いちご、きすけにひろわれた!」

「・・・・・・・・・は?」

夜一の知人こと浦原喜助がにこやかに答え、「いちご」と名乗る子供が実に子供らしく――こんな男と一緒に暮らしているにもかかわらず!――ハキハキと続けた。
しかし言っていることはまるで犬猫のよう。
「いちご」は如何見ても人間であるのに、だ。
それがまるで普通であるかのように会話する大人と子供を視界に入れ、夜一は「やはりな。」と浦原の性格を思い出し、ついでにこの男に拾われたらしい子供がもう既に歪んだ常識を身につけ始めていることを胸中で嘆いた。

これが四楓院夜一と変わった毛色の子供―――黒崎一護との出会いである。









●設定ミスのため途中で終了。シリアスな予感。




偶然だった。
浦原が隊長の仕事を放って現世に来ていたのも。
彼の目の前で車の正面衝突が起こったのも。
一方の乗用車に乗っていた家族の中でたった一人、幼い少年だけが運悪く鼓動を止めてしまったことも。

「・・・へえ。」

胸から鎖を生やし、怪我人である両親を泣きそうな顔で見つめる少年の姿は、僅かながらだが浦原の興味を引いた。
ただの人間にしては妙に高い霊圧。
魂が肉の器から解き放たれたためにそれが顕著に感じられる。
周囲に虚がいたなら、きっとどいつも見逃さないに違いない。
現に―――

「アナタの出番は有りませんよ。」

呟き、無造作に斬魄刀を一閃。
始解すらされていない紅姫が浦原の背後からやって来た虚の頭蓋を斜めに切り裂いた。
醜い悲鳴が耳をつんざく。
だがその声が聞こえる者は、ここには浦原のみ。
と、思っていたのだが。
悲鳴の発生源、つまりこちらを驚きと共に見つめる視線がちりりと浦原の神経を焼いた。
あの、少年だ。
眩しいオレンジの髪の奥、チョコレート色の瞳を零れんばかりに見開いて少年は浦原とそのすぐ傍で白い破片になって消えていく虚を視界に捉えていた。
浦原が意識を向けたことで二人の視線がぴたりと合う。

「・・・ッ!」
「おや。」

少年の肩が揺れ、身体が強ばる。
その様を見て浦原は小さく笑い、先刻よりも確実に大きくなった興味と共にふわりと少年の前へと降り立った。

「キミ、アタシが見えるんスね。」

にこりと微笑み、なるべく優しい声で――ただし金眼の旧友ならきっと「気持ちの悪い猫撫で声」と称すことだろう――語りかける。
だがその笑みが表面上のものだと判ったのか、少年の強張りは解けない。
勘が鋭く、警戒心の強い子供だ。
浦原は双眸を眇め、今度こそ本心から楽しげに笑う。
そして少年に向かって彼方を持っていない方の手を差し出した。

「な、に・・・」
「ご両親のことは心配でしょうが、いつまでもここに居るわけにもいかないデショ?だからアタシと一緒に来なさいな。」
「なんで、ヤだよっ。」

傷を負った両親が心配な気持ちと浦原への警戒心、その両方から少年がビクリと身を竦ませる。
当然と言えば当然の反応だ。
だが浦原は手を引かずに笑みを浮かべ続ける。

「なんで、と言われましてもね。じゃあキミはこのままここに留まった場合、キミとそこのご両親がどうなるか解ります?」
「そん、なの・・・」

知らない、と睨み付けてくる少年。
そんな子供に浦原は畳み掛けるように告げた。

「生憎“知らない”では通じないんスよ。もしキミがここに残れば、おそらくそう時間も経たないうちにキミは先刻の化け物―――虚と言うんスけどね、そいつらのエサになってしまうでしょう。また運良く食べられずに済んだとしても、今度はキミが虚になってご両親の魂を喰らうことになる。」
「えっ・・・!」
「そっちの方が、キミはイヤでしょ?」

にこりと笑う浦原とは正反対に少年の目は大きく見開かれ、戸惑いに揺れる。
両親が心配で心配で堪らないらしいこの子供のことだ、己があの化け物と同じものになり、両親を害する可能性があるということに恐れを抱いているのだろう。
急にこちらへの警戒心が薄れていくのを感じて――否、警戒心がそれ以上の恐怖心に凌駕されて鋭さを失っていくと称した方が適切か――浦原はほくそ笑んだ。

「さあ、アタシと一緒にいらっしゃい。アタシと来れば少なくともキミがご両親を襲うなんてことにはなりませんよ。」



□■□



数時間後、尸魂界・瀞霊廷にて。
浦原喜助十二番隊隊長が現世から戻って来たと聞いて、夜一はふらりと彼の隊舎を訪れた。
もしかしたら土産の一つでも持って帰って来ているかも知れない。
いや、むしろしっかり持って帰って来い。
そんなことを考えながら扉を開けるが。

「なんだ喜助、今日は機嫌が良いようだな。」
―――そんなにヘラヘラ笑いおって。気持ち悪いぞ。

うへ、と顔を歪ませる夜一の視線の先には実に機嫌の良さそうな浦原の姿。
どうやら技術開発局に寄ってから隊舎に来たらしく、彼は白い隊長羽織ではなく研究員の白衣を纏っている。

「ええまぁ、ちょっと面白い研究材料が手に入りましてね。」
「ほう・・・」

夜一は興味を示しつつも、一方で呆れるような声で応えた。
浦原が面白いと称す研究材料と言うことは、どうせ碌でもないものに違いない。

(他の者達に見つかって下手なことにならなければいいが・・・。)

「まったく、変なものを拾ってくるのもほどほどにせい。それよりも儂に何か土産はないのか?」
「えー、なんで夜一サンにお土産なんか持って帰って来なくちゃならないんスか。欲しいものなら御宅の副官に言えばすぐ手に入るでしょ。」
「なんじゃお主、何も無いのか。」
「あるのが当然みたいな顔しないでくださいよ・・・」

うんざりとした表情で呟く浦原。
だがその直後にはパッと表情を明るくして良いことを思いついたとばかりに両手を打ち鳴らした。

「あ、それじゃあ特別にアタシが持ち帰ったものをお見せしましょ。珍しい毛色の子ですから、夜一サンのお気に召すかも知れませんね。欲しいって言ってもあげませんけど。」
「・・・珍しい毛色の“子”?」

嫌な予感を覚えて繰り返す夜一だが、浦原が気にした様子は無い。
そのままヒラヒラと手招きして隊舎を出る。

「夜一サン、こっちっスよ。」

向かう先は技術開発局。
急速に増大していく嫌な予感に額を押さえつつ、それを確かめるためにも夜一は浦原の後に続いた。



* * *



技術開発局の奥、浦原を含む限られた者しか入れないと言う一室を訪れた夜一は、視線の先にある“それ”に息を呑んだ。

「なっ、喜助!以前のように虚の一匹や二匹連れ帰っても儂は文句など言わん。だがこれは問題じゃぞ!」

気を抜けば相手の胸倉を掴み上げてしまいそうな勢いで夜一は浦原に詰め寄る。
金色の双眸が捉えたのは寝台(と言っても手術台としての役割を担う、安らぎとは全く別方向にある物体だが)に寝かされた子供の姿。
確かに浦原が言った通り、橙色という珍しい毛色をしているが、それことよりもまず浦原が人間を尸魂界に連れ帰ったことが問題なのだ。
しかし眉を吊り上がらせる彼女に対し、浦原は薄らと笑って気を鎮めるよう促す。

「安心してくださいな。この子、アチラですでに死んだ人間っスから。それにアタシと一緒に来ることもきちんと了承してくれましたよ?そりゃあ多少、強要することも無きにしも非ずですが。」
「当たり前じゃ。もし現世の人間を研究材料と称し殺して連れて来たとしたら、儂自ら刑軍軍団長として裁いてやるところじゃったわ。」
「そりゃ怖い。ですがまあ、アタシがこの子の存在に気付いたのはこの子が死んで肉体から魂が離れたおかげなんスよ。・・・ほら、夜一サンも感じるでしょ?この子の霊圧の高さ。一応用心して霊圧を抑える道具を持たせたんスけどね、それでも完全に肉体から魂魄を切り離した瞬間、一気に霊圧が跳ね上がっちゃいました。」

興味深い研究対象を見るような目つきで浦原がオレンジ色の子供に視線をやる。
夜一も釣られてやや冷静さを取り戻してから再び子供を見ると、浦原の言う通り、押さえつけられていても尚高い霊圧を感じることが出来た。

「喜助・・・お主、この子供をどうするつもりじゃ。」

気付けばそんなことを呟いており、夜一はハッとする。









●スレ気味な子一護と面倒臭がり屋な浦原隊長




「はァーしんど。」

ぼそりと呟き、男は空を仰ぐ。
誰にも聞き咎められることなく零れ落ちた声は、しかし、「しんどい」と言うよりも何か別の空虚さを漂わせていた。
高い建物の屋上に腰掛けていた所為か、男の衣服が風に煽られてバサバサとはためく。
よく見れば…否、一目見ただけで自分の目をしばたかせるほどその男の出で立ちは、この空間においてひどく奇妙であった。
男が纏っていたのはありふれたシャツやズボンではなく、黒い着物――確か袴とか言ったか――と奇妙な柄がついた白い羽織。
しかも腰には刀がぶら下がっている。
模造刀だろうか?
そう思いながら、奇妙な格好の男を観察していた『彼』は、地毛とは思えぬ鮮やかな色の髪を風に遊ばせて口を開いた。

「へんなの。」



□■□



「へんなの。」

風に乗って聞こえてきた声に着物の男―――浦原はそちらへ振り向いた。
初めからそこに人間がいることには気付いていたため、特に驚くことはない。
だが幾らか離れた所に立つ声の主を目にした瞬間、浦原は双眸を大きく見開いた。

「オレンジ色の子供…」

立っていたのはまだ小学生だと思われる年頃の少年。
あどけなさを湛えた大きな瞳はチョコレート色で、その瞳を隠さないよう切られた髪はまばゆいオレンジだ。
天然の極彩色を纏う少年を見つめると、ふと視線が合った。
そう、視線が合ったのだ。

「…え、」

そんな馬鹿な。
唖然としながら浦原は胸中で否定を繰り返す。
有り得ない。
だってあの子供は人間で、自分は死神なのだから!








設定に致命的なミスがあったり、話が続かなかったり。
そんなこんなで中途半端な隊長浦原×子一護ネタでした。

(2009.01.15up)