某日、とある宇宙人少女の部屋にて。三人掛けのソファに腰を下ろしながら二人の少女が一人の少年を間に挟み、明確な怒りと不機嫌さを込めて互いに睨み合っていた。
「長門さん、その手を離していただけません?」
「なぜ?」
「なぜって、そんなの見て解りませんか?」
「解らない。この状況でわたしが手を離す必要性を感じられない。」
「あら、なんて傲慢なことでしょう。あなたに腕を拘束されて迷惑している方がすぐ傍にいらっしゃるじゃありませんか。」
 にこりと顔だけで微笑み、二人の少女の一方―――喜緑江美里が己の左側に座る少年へ密着した。それを見たもう一方の少女―――少年の左側に座る長門有希がいつもの無表情を保ちながらもチリ、と空気を震わせて感情を露わにする。
「離れて。」
「その言葉はお聞き出来ません。離れて欲しいならばまずご自分から動いてくださらないと。」
 ねえ、お兄様?
 そう言って左側の少女に向けていたものとは全く逆の性質を持つ柔らかな微笑を浮かべて、右側の少女は密着する人物を見上げた。
「お兄様もそう思うでしょう?他人に何か言う時はまず自分からって。それにいつまでも腕を拘束されたままじゃあいい気分ではありませんよね。」
「前者は時と場合によっちゃ正論だが、別に今は腕くらいなら・・・」
 お兄様、と呼ばれた少年がぽつりとそう答えると、左側の少女が(未だ無表情ではあるのだが)瞳に優越感を滲ませ、逆に右側の少女は悔しそうに唇を噛む。
「わたしはこのままでいい?」
「ああ、構わんさ。本は右手一本ありゃ読めるしな。」
 左の少女の問いかけにそう返し、少年は先程から読んでいた薄い文庫本のページを器用に右手の指だけでめくった。その使用中である右手側に座る少女はと言えば、左側の少女のように少年の腕に自分の腕を絡めるわけにもいかず(兄の読書を邪魔するなんてとんでもない!)じぃ、と恨みの篭った視線で左の少女を睨みつける。だがしばらくすると、それならば、ということで今度は兄の腰に腕を回して見せた。
「江美里?」
「これだったらお兄様の邪魔になりませんよね?」
「まあな。でもお前が辛くないか?その姿勢。」
「全然。全く。」
 うふふ、と満足そうに笑いながら答える妹に、少年は「そうか」と小さく頷いて視線を本に戻す。どうやら本当に読書の邪魔をされなければどうでもいいらしい。だが少年はそれで良いものの、左側の少女まで同じ思いであるかと問われれば答えは否である。
 互いの表情を先刻と入れ替えた形で今度は左側の少女が右側の少女を静かに睨み始めた。
「なんです?」
「離れて。彼の邪魔になる。」
「邪魔にならない、とお兄様ご本人が言ってくださいましたけど?」
「それは彼の気遣いによるもの。本心ではない。」
「知ったかぶりは感心しませんよ。」
「真実が見えていないのはあなたの方。」
 互いに一歩も譲る気は無いらしい。
 だがその一方で口論と共に兄に密着する強さも強まっていたらしく、それが許容出来かねる範囲にまでなってきたためか、少女達の視界の外で少年がこっそりと眉を顰めた。
 そして、

「"大事な妹"が喧嘩してるのってのはなんだか悲しい気分になるな。」

 ふう、と溜息と共に呟かれた一言でピタリと少女達の動きが止まる。
「悲しい・・・?」
「ああ。」
「そ、それはいけません!」
 左側の少女に少年が答え、それを聞いた右側の少女が慌てて声を高くする。そして一瞬の内に反対側の少女とアイコンタクト。両者共々この兄を悲しませるなど以ての外なのだ。もし兄が今の自分達の状況を悲しいと言うのなら、それは何を置いても即刻止めなければならない。
「ごめんなさいね、わたしが言い過ぎたようです。」
「わたしも言いすぎた。謝罪する。」
 先刻までのピリピリした空気は何処へやら。少女達は互いに謝ると「お茶でも淹れてきましょうか」「手伝う」などと言いながらキッチンへと姿を消した。
 急に和やかになった部屋の中で少年はそんな妹達の背を見送りつつ、人知れず胸中でのみ呟く。
 これでようやく読書に集中出来るな、と。
 それを「知らぬが仏」と人は言う。







しておりますお様!ただし残念なことに一方通行っ









宇宙人キョンでは妹達→→→→→→キョンが基本形(苦笑)
リクエストしてくださったシセル様のみお持ち帰りOKです。