「アンタまだこんなこと続けんの?」
「まあね。」
「でも多少の変化はあれど基本は解りきってることを繰り返すだけなんだぜ?」

そんなの退屈だ、と零す少年に男が薄らと微笑みを返す。
まるで「君はまだまだ甘いね。」と言わんばかりに。

二人がいる場所は現世のとあるカフェレストラン。
窓の向こう側には明るい昼の世界が広がっており、老若男女が街をそれぞれに歩いている。
時折“生きていないもの”も見かけられたが、この二人とは違い大勢の人間はそのような存在に気付くこともなく、暢気なものである。

ちろり、と視線を外にやって先日交通事故で死んだらしい初老の男性の姿を目に留めながら少年は溜息を一つ零した。
正面に座る相手は茶色い髪をオールバックにし、しかも一筋だけ額に垂らすなどという、お前は何処のホスト(もしくはそこのオーナー)だ、と問い詰めたくなるような風貌。(しかもそれが無駄に似合っているからいけない。)
つまりはただの学生――であるが髪は少々特殊な色をしているため、教師に目を付けられて困った事態に陥ったのは数知れず――でしかない自分とはどう考えても接点など持ちようの無い人物である。
だが現在進行形で自分と男は同じ席に着いているし、これが初めてというわけではない。―――ないのだが、そこには「ただし」という注釈がついた。

「で、『今回』は何周目だっけ?」

もう繰り返し続けて回数なんか忘れちまってるんだよ、とうんざりとした顔で呟けば、正面の男が微笑を苦笑に変える。

「途中参戦の私は違うけれど君にとってなら『今回』でちょうど100周目だよ。」
「うわ、もうそんなに繰り返してんのか。」
「君と私がこうやって話すようになったのはまだその半分にも満たないけどね。」
「はっ!でもこうして毎回毎回、記憶が戻るたびに顔合わせてんだろ。おかげで今じゃ浦原さん達より付き合いが長くなっちまった。」
「それは光栄なことだ。」

少年だけではなく少々遅れて記憶が戻る男に合わせ、彼らは毎回、世界が戻るたびに顔を合わせ、これが何度目の世界であるか、またこの世界で『今回』の自分達は何をするか等を話し合うようになっていた。
だがその話し合いを設けているにもかかわらず、世界はだいたいこれまでと同じ流れになっていく。
少年はそれがつまらない。
だが、ただつまらないだけではない。
なぜなら世界が変わらない理由の一端がこの男にあるからだ。
言ってしまえば、この男、何度も何度も飽きずに『一周目』の世界と同じ行動をとろうとするのである。
おかげで少年が多少動きを変えても大まかな世界のシナリオは変わらない。

よって少年はもう何度目になるか判らない舌打ちを男に隠しもせずやってみせた。

「飽きた。もっと面白い展開が欲しい。」
「そうかい?視点を変えれば今の状況だって違って見えてくると思うけど。」
「見えません。ってかアンタに世界はどんな風に見えてんだ?」
「世界が見える、なんて大仰な表現は似合わないと思うんだが・・・そうだね、とりあえず繰り返してるおかげで“ああ、この時のこいつはこんな風に考えていたのか。”ってことには気付けるかな。」
「・・・それのどこが楽しいんだ?」
「解らないかい?」
「さっぱり。」

ああ、アンタ腹黒だから俺には解らないことが楽しいのかもな、と少年は続ける。
そしてその予想は正解らしい。
男は優しげな風貌に僅かな黒さを滲ませて酷薄に笑った。

「その時の相手の思考が解る・・・それはつまり、相手の心情を自由にするチャンスであると言えるんだよ。」
「つまり自分の好きなように相手を誘導したり傷つけたりできるってことか。」
「正解。」
「このヒトデナシめ。」
「そんな状況を今みたいに笑って許容している君もヒトデナシだね。」
「そりゃ、100回も繰り返してりゃ多少は性格も歪んでくるっての。」
―――アンタと裏で繋がるくらいにはな。

そう言って少年は鼻で笑った。

「なあ、そうだろ?藍染惣右介さん。」
「そうかもね、黒崎一護くん。」







ヒトデナシが嗤う









一護&藍染が逆行。そして似たような世界を繰り返しつつも、裏で手を組んで他人を嘲笑ってみたり。
リクエストしてくださったえりか様のみお持ち帰りOKです。
(おそらく)予想斜め上の話で申し訳ございません・・・!