「・・・そろそろ、だな。」
「ん?もう始めんのか。」

黒の主が呟き、白の影が応えた。

二つの人影が存在するその世界はあまりにも奇妙で現実味の無いもの。
本来下から上に向かって生えるはずの高層ビルが真横に伸び、空が側面に横たわっている。
鏡のように世界を反射するビルの窓は、そこに足を付ける二人も同様に映し出していた。
まるで一卵性双生児のようにそっくりの容貌を持つ二人は、しかし一方は黒い着物を纏いながらも鮮やかな色の髪を持ち、もう一方は髪も肌も服も全て白く染められている。
その所為か、ぱっと見ただけでは二人を『同じ』と思うようなことはない。
それは普段この二人が浮かべる表情の差――黒の主は顰め面をしつつもどこか優しげな面持ちをし、白の影は皮肉げな表情を浮かべている――ことも原因の一つ。
しかし今の時点において、おそらくこの二人を見た誰もが「彼らは『同じ』だ」と答えるだろう。
二人があまりにもそっくりな表情を浮かべ、同じ雰囲気を纏っているが故に。

くつり、と黒の主が喉の奥で笑う。

「ああ、子供ぶるのもベタ甘な親を演じるのも面倒になった。舞台は充分過ぎるほどに整えられたんだし、それにもう何百年って待ったんだ。動き始めたって早くは無ェだろ?」
「ま、確かにな。・・・しっかし、」

黒の主の問いかけに白の影は口端を吊り上げ、一度言葉を切ってから再度繋ぐ。

「壮大な人殺しの舞台を整えるだけに従順な下僕のカオして、汚い子供まで拾って育てて。そいつの目の前で殺されてやるなんてな。んで、転生したらまた虚を斬って。おまけに成長した“我が子”をまた手懐けて。ホントよくやるぜ。」
「それくらいやんねーと面白くないだろう?準備に手間を掛けてこそ、本番がより楽しいものになるってもんさ。」
「おお怖い。さすが我が相棒殿。」

白の影がニヤリと笑う。
これから目の前に広がるであろう朱と絶望に塗れた世界を想像して。






□■□






―――なぜ。
その呟きに黒崎一護という名をもつ少年は慈悲に溢れた微笑を浮かべ、教師が物分りの悪い子供に接するかの如くゆっくりと告げる。

「それはな、最初からこういう予定だったからさ。」

少年の着ていた白い服はそれまでに切り裂いた“虚ろなる者達”の血によって赤黒く染まり、もとの無垢な色を残してはいない。
その赤黒い長衣から伸びた細い腕は漆黒の刀を持ち、こちらもまた服と同じ色のものを刀身にまとわり付かせていた。
が、その様子が窺えたのは先に近い側の半分だけで、柄に近い残りの刀身は見ることが叶わない。
何故なら漆黒の刀身が少年と対峙する茶色い髪の男の胸に深々と突き刺さっていたからだ。

少年に刺された男は困惑と絶望の表情を浮かべ、自分よりも小さな少年の顔を見つめる。
なぜ。
なぜ、貴方が私を刺したのですか。
どうしてこんなことになっているのですか。
今は死神達がこの世界に攻めて来ている真っ最中で。
貴方はこれからその者達の相手をしに向かわれるはずで。
ああ、しかし。
敵を斬るはずの貴方の斬魄刀が、どうして今、私の胸に生えているのか。

「さっき言ったろ?最初からこうなる予定・・・『役』だったんだよ。お前は。」

ずるり、と男の胸から刀を抜き、地面に崩れ落ちたその身を見下ろして少年は小さく喉を震わせた。

「お前達と死神が戦争を始めたおかげで今この地には沢山の“対象エモノ”がいる。死神も虚もゴミみてーにな。それを一掃しちまったらゼッテー気持ちイイと思わねぇ?しかもオマケで何百年も我慢してたんだからな。」
「・・・え?」
「つまりお前も俺の計画に含まれた駒の一つってワケ。よくぞここまで立派に成長してくれたモンだよ。充分過ぎるほど見事に俺のための復讐鬼と化してくれた。“親”として鼻が高い。」
「それ、は・・・そんな。」

私を拾って育てたのも、目の前で殺されたのも、全ては貴方が仕組んだことだと・・・?
呟きのような問いに、少年は「良く出来ました」と満足げな表情で首を縦に振る。
男の喉が引き攣った声を出した。
それを見て、少年が更に笑みを深める。

「そんでもってお前の役目はここで終了。あとは俺“達”が遊ぶ時間だ。」
「つーわけでテメーの仕事はここで終了。あとは俺“達”が遊ぶ時間だ。」

まるで二重に聞こえたその台詞に、男はそろそろ自分の命が消えかけているのだと思った。
声がブレて聞こえるほど、身体能力が落ちてきているのだと。

ずっと、ずっと慕ってきた人物に裏切られ、捨て駒にされ。
最後はその手で葬られるのか。
それが嬉しいのか悲しいのかすら分からない。
ただ胸が詰まるような、逆にどこまでも空虚であり続けるような感覚の中、そうして男は目を閉じた。



「じゃ、行きますか。」
「おう。全部切り刻んでやろうぜ。」

同じ口から同じ声音の、しかし二人分の言葉が紡がれる。
橙色の頭髪が一瞬だけ白く染まったのは目の錯覚か。
しかしその理由を本人“達”以外に知る者はなく、またそうであってはならない必要性もどこにも無かった。







復讐劇の結末は







遊戯と称した殺戮の世界。
血に染まる大地で立っているのは一つの体と二つの存在。
黒の主と白の影のみ。








リクエストしてくださった来栖屍兎様のみお持ち帰りOKです。
白→←黒・・・?
す、すいません。リクエストに副えていないやも知れません(汗)
スレ・黒幕とのご希望でしたので、黒幕一護シリーズの派生(if)話っぽいものを書かせて頂きました。