「こうして皆に集まってもらったのは他でもないわ、あいつのことよ。」
 いつもの団長席に両手をつき、椅子から立ち上がった少女はスッと目を細めた。その視線を受け、文芸部室もといSOS団室の中央に据えられた長テーブルに着席する三つの人影は各々の表情を形作る。
「なるほど。そのために本日は『彼』が欠席しているというわけですか。もしかして久々に力をお使いになりました?」
 三つの人影の一つ、古泉一樹がその長い足を組んだまま少女に笑みを向ける。しかし表面だけを取り繕った表情が隠せるものなど高が知れている。もしこの質問に少女がYesと答えたならば、それと同時に古泉が表情を取り繕うことさえ止めてしまうだろうことは容易に予想出来た。温厚を装っている者ほど笑みの仮面を外した時に恐ろしいものはない。
 質問の意図を正確に読み取った少女は呆れを隠すこともなく、はあ、と大袈裟に溜息を吐いて古泉を睨み付ける。
「あたしが無闇矢鱈とあいつに力を使うと本気で思ってんの?そんな失礼なことするわけないじゃない。今回の欠席は偶々よ。だから緊急招集かけたんだし。」
「そうですよね。だったら良いんです。」
 いつの間にか緊張していた場の空気が和らいでいく。
「まったく、初っ端からビシビシ敵意なんてぶつけて来ないでくれる?」
「すみません。しかし僕にとって優先すべきは『彼』のことのみです。その大切な『彼』にこの程度のことで力を使われてしまっては、ねえ?」
「そうですね。実に許しがたい行為です。」
 古泉の物言いに、向かいに座っていた朝比奈みくるが同意する。その横では長門有希も小さく首を縦に振っていた。
「だぁかーらー!やってないって言ってるでしょ!?っていうかあたしだってそんなの嫌よ。」
 あいつはあたしたちにとって何よりも大切で絶対不可侵の存在なんだから、という少女の呟きに他の三人は各々脳裏に『彼』を思い浮かべ、穏やかな空気を纏う。
「ま、そんなわけで今日は偶々だって解ってくれたわよね。それじゃあ話を続けるわ。」
「ええ、どうぞ。話の腰を折ってしまってすみませんでした、『代行者』。」
 苦笑を浮かべる古泉に少女―――『代行者』は鷹揚な態度で頷き、口を開いた。
「これまで何回も言ってきたことだけど・・・あたしたちは何のために存在してる?答えは解ってるわよね。」
「たった一人のため、ですね。」
 みくるが答え、古泉も同意してそれに続く。
「『彼』の望みを叶えることが我々の目的であり、そして望みです。」
「その通り。あんたたち『宇宙人』『未来人』『超能力者』は直接的にあいつの願いを―――普通じゃない人種に関わる一般人的立場でいたい、そんな立場で楽しみたいっていう願いを叶えるために存在している。そして『代行者』たるあたしは、他の人間のためなら力を使えるくせに自分のためにはちっとも何も出来やしないあいつの力を"代わりに"振るう者。あんたたちがこの場に集まったのもあたしが力を使った所為。・・・もちろん理解してるでしょう?」
「充分承知している。」
「ええ。あたしもです。」
「僕も同じく。」
 長門、みくる、古泉の順に答える。
 自分達は"彼"つまり『代行者』である少女が持つ力の"本来の持ち主"の叶えられるはずがなかった願いを叶えるために存在しているのだ。それはまるで魂に刻み付けられたかのごとく、この世に存在した瞬間から自覚していた思いであり、また『彼』の望みを叶えることが自分達の願い。何故なら―――
「あんなに優しい『神様』にはいつも笑顔でいて欲しいですからね。」
「だからあたしが力を掠め取ってこんなことやってるんだけど、」
「感謝していますよ。『彼』の願いを叶えるためには資格を持った他の者に力を使っていただく必要がありましたから。たとえばそう、あなたのように。」
 古泉がそう言って『代行者』に視線を向ける。しかし『代行者』は誇るでも喜ぶでもなく、気まずそうに首を軽く横に振った。
「・・・でもね、その割には最近何も起こってないと思わない?」
「あ・・・」
 みくるが小さく声を上げ、長門は無言のままコンマ数ミリほど目を見開くことで「しまった」という感情を表す。古泉も同じく「嗚呼、」と声を漏らすと、
「『彼』の傍にいられることが嬉しくてついつい平凡な日常を送ってしまっていましたか。」
 申し訳なさそうな声音で告げた。
「あたしもこんな日常が嫌いってわけじゃないんだけどね。でもやっぱり本当に日常しかないってのはつまんないのよ。それにあたしたちの存在意義が生かしきれてないじゃない?だからね、」
 視線の先の三人が頷き、先を促す仕草をしたのを見届けて、『代行者』はキラキラ輝く瞳で宣言した。
「そろそろ何か面白そうなこと始めるわよ。でなきゃ何よりもまず、あたしたちの大事な『神様』が退屈しちゃうからね。」






代 行 者涼宮ハルヒ が 宣 言 し ま す






 それは、日常に非日常が混じる少し前の、ある平穏な日のことである。








四人とも何やら黒くてスミマセン…!
リクエストしてくださった雪様のみお持ち帰りOKです。