唇で柔らかな感触を受け止めていたその少年は、相手との物理的距離がゼロから30センチほどへと広がった後、淡々とした声音で呟いた。
「バレたら消されるぞ。」
「涼宮さんに、ですか?」
 くすりと笑って相手が答える。その笑みは言葉でどう言おうと心の奥でそうなるはずなどないと確信しているものだ。
 なるほど確かにそうだろう、と少年は思う。涼宮さんと呼ばれた人間は今現在他の存在とは一線を画す者として様々な方面の者達から静かなる注目の的となっているが、だからと言って(そう出来る力は確かに持っているのだが)実際に自身の周囲にいる決して浅くはない付き合いの人間をあっさりと消してしまうほど短慮な人間ではない。
 よって少年は相手の深層に同意するように「あいつに人ひとり消すようなマネは出来んさ」と返した後、続けて小さく苦笑しながら告げた。
「やるとしたら有希と江美里だな。」
「ユキとエミリ・・・?」
 耳慣れない呼称に相手が首を傾げる。だが流石『機関』の人間と言えようか。すぐさまそれが誰を指しているのか気付き、ポンとわざとらしく両手を打ち鳴らした。
「長門さんと喜緑さんですか。しかし随分と親しげな呼び方ですね。」
「そりゃあな、"妹"だし。」
 何気なく答える少年に、相手はやや眉を顰めて不満を露わにする。そう見えないくせにあなたと繋がりがあるなんて羨ましい、と。
「羨ましい、か?」
「ええ。妬ましいと言っても過言ではありません。何せ彼女達は僕と違い、正真正銘あなたと同じものだ。ただの人間でしかない僕では到底及ばない関係ですよ。」
「ただの人間、ねえ。"超能力者"がよく言う。」
「閉鎖空間以外では本当にただのヒトではありませんか。いつでもどこでも情報操作を行えるあなた達と比べれば月とスッポンです。」
 さらりとまるで何も気にしていないかのごとく音にされたその言葉に、しかしながら相手の心情を汲み取って少年はあからさまに不機嫌な表情を作る。
「自分を下卑するのはやめろ。あまり気分のいいもんじゃない。」
 相手が特別な空間以外ではただの人間であることも、自分を含め妹達が(『人間』と比較して)とてつもなく大きな力が振るえることも事実ではあるが、それを己のマイナス面として捉えるなど以ての外。特に、この目の前の人間の場合は。
 何故この相手だけ特別にそう思えるのかは、勿論、改めて言葉にせずとも少年は理解しているつもりである。
「すみません。」
 しばらくの沈黙の後、そう言って相手が謝った。だがそれとは逆に声も表情も落ち込むと言うよりはむしろ嬉しそうなものであり、少年の隠れた思いやりにしっかりと気付いているようだった。が、それでもまだ何かわだかまっているものがあるらしい。ゆえに少年は溜息を一つ吐くと、相手のネクタイを掴んで顔を寄せた。
「言っておくが、こんなことを許すのもこっちから仕掛けるのもお前くらいさ。」
 掠めるような口づけの後、唇が触れ合うような距離でそう囁く。そして呆気にとられた後真っ赤に染まる相手の顔を見て目を眇めながら小さく笑った。







規格外の恋人

半端な超能力者と奇妙な宇宙人きかくがいどうしってのも案外お似合いかも知んねえぜ?









ちなみに古泉にとっての最大の障壁は宇宙人な妹達(笑)
リクエストしてくださったしのだけ様のみお持ち帰りOKです。