愛する人を殺すなら銃よりナイフの方がいい。

 昔どこかでそんな文章を目にした事がある。当時は、そもそも何故愛する人を殺さなければならないのかと疑問に思ったものだが―――なるほど、と静雄は今なら思う事が出来た。
「……ぃず、……さ……」
 別に憎くて殺す訳じゃない。相手が浮気か何かをして腹を立てたから手を出す訳でもない。
 ただ、欲しいから。
 愛しい気持ちが大きくなりすぎて、寄り添って笑い合うだけでは満足しきれなくなってしまうのだ。
「し…………さん、やめ……っ」
 声も視線も、笑った顔も泣いた顔も怒った顔も。手も足も心臓も、その髪一本ですら、全て自分の物にしたい。
 だから全てを貰うために、愛しい人を殺したくなるのだ。
 ならばそんな時、どんな殺し方が一番素敵なのだろう。
 かつて静雄が目にしたその文章の中では、相手の温もりを感じられない銃は好ましくないと語っていた。反対に、ナイフならば相手を抱きしめる・抱きしめられる距離でその命が消えていく様を実感できるのだそうだ。
「し、ず……」
「でも、それなら一番いいのは―――」
 愛しい愛しい、途切れ途切れの声を聞きながら静雄はうっそりと微笑を浮かべた。
「こうやって素手でお前に触れる事だろ……なあ、帝人」
「……ぁ、ぐっ」
 左腕を帝人の腰に巻きつけて身体を密着させ、右手でその細い首をゆるゆると絞めつける。
 静雄が本気を出せば一瞬で潰れてしまう脆いものだが、そんな勿体無い事をする気にはこれっぽっちもなれなかった。できるだけこの時間が長く続くようにギリギリのラインを見極めて右手に力を籠め続ける。
 ナイフなどという無粋な無機物に頼るなど以ての外。直接その皮膚に触れて、熱に、脈打つ感触に、全神経を傾けて感じ入る事こそが最大で最上の愛なのだ。
 酸欠で赤く染まった帝人の顔に静雄は唇を寄せる。目尻から零れた涙、口の端を伝う唾液。それらを優しく丁寧に舐めとって、最後は噛み付くように帝人の口を覆った。
 そのまま右手に籠める力を強くして―――

ボキンッ







これでお前は俺のもの。