「なあ、食べていいか?」
「だめですよ」 静雄の問いに、前方を歩いていた帝人が振り返ってやさしく首を横に振った。 「でも食べたい」 「だめですってば」 足を止めた帝人は淡く微笑んで繰り返す。 折れそうなくらい細い手足。肉付きの薄い身体。透き通るような白い肌。黒曜石を思わせる二つの瞳と、痛んだところが全く無い黒髪。―――竜ヶ峰帝人を構成するパーツはどれをとっても魅力的だ。それなのに、帝人は静雄の問いに首を振る。食べちゃだめですよ、と。 「でも、でも。俺はお前が好きなんだ」 「僕も静雄さんが好きです」 「だったら、」 「だから、ですよ」 言っている意味が解らず静雄が眉根を寄せると、帝人は困ったように笑いながら手を伸ばしてきた。この子供がこちらに害を及ぼすなど有り得ないので、静雄は黙って好きにさせる。 帝人の細い腕はスッと伸ばされ、白い手が触れたのは静雄の顔の横。最低限の力で優しくサングラスが外されると、何の隔たりも無くなった視界に帝人の実年齢より幼い笑みが鮮明に映った。 「みか、ど」 「静雄さんが僕を食べてしまったら、静雄さんはもう一生、僕を見る事が出来なくなってしまいます」 帝人の白くて細い手が静雄の唇を掠める。 「静雄さんが僕を食べてしまったら、静雄さんはもう一生、僕とお話する事が出来なくなってしまいます」 帝人の白い手が少し下げられ、静雄の腕に触れた。 「静雄さんが僕を食べてしまったら、静雄さんはもう一生、僕を抱きしめる事が出来なくなってしまいます」 そして白い手は静雄の胸の中央に。 「だから、ね。もう少し我慢しましょう?」 * * * 「なんつー夢見てんだ……」 ベッドの上で上半身を起き上がらせ、平和島静雄は小さく呻いた。 夢の中の自分はあの大切な子供を食べたくて食べたくて仕方がなく、許しの声一つでその身に手を掛けていた事は間違いない。 最悪だ、と更に呻く。 ただしそれは気味の悪い夢を見たからではない。静雄が最悪だと思ったのは、夢の中の自分の願望が現実においても“本物”だと解ってしまったからだ。 食べたい、と言うのは平和島静雄の本心であり本能。 夢の中の竜ヶ峰帝人の声は、その本能を戒める理性。 「…………、」 今はまだ理性が勝っている。 大切な子供を見つめるために、大切な子供と言葉を交わすために、大切な子供をこの腕で抱きしめるために。 けれど。 「お前を食いてえよ、帝人」 苦しげに、そしてとても愉しげに。 静雄は今ここにいない人物に向けて、ひどく甘い声でそう囁いた。 どちらがより満たされるかについて
DRRR!!初SS。 原作未読でアニメは各話一回ずつ視聴したのみという状態でやってしまったこの暴挙。 要反省です。 あと静帝ラブ! 静帝ラブ!(大事な事なので二回言いました) |