一護が目覚めるほんの数刻前。
浦原は王族の一人から一枚の紙切れを手渡されていた。















wirepuller 0 (相反する思いと想い)















「これは・・・」
「黒崎一護に関する罪状と処罰についてだ。」

淡々と言い切られた言葉に息を呑む。
今己が手にしている紙の中に敬愛する上司の運命が書かれているのだ。

背後に控える萱島と志野に急かされ、浦原は三つ折りになったそれを静かに開いた。


「そ、んな・・・」

覗き見た志野が両手で口を押さえる。
書かれていたのは、もう自分達があの方に会うことは出来なくなるということ。

一護の中に巣くう虚が取り除けないことは知らされていた。
しかしそれでも、まだ永久追放や幽閉なら自分達から会いに行くことも、そして時間は掛かるだろうが罰の軽減や撤廃さえ可能だったかも知れないと言うのに。

「何百年も掛けて転生させると言う事ですか。」
「そう言う事になるな。」

王族であるその人物は何故か苦々しく肯定し、そして自分の役目は終えたと踵を返す。

「ちょ、なんで!?あの方が何した言うんですかっ!?あの方は皆のために・・・!」
「止めなさい。・・・・・・申し訳ございません。躾のなっていない部下で。」
「いや、構わんよ。」

今にも王族に噛みつかんばかりの志野を片手で抑え、浦原はその男に頭を下げる。
男は小さく口端を吊り上げると豪奢な着物の裾を捌いて建物の奥へと消えていった。



「志野。貴女はもっと自分が王属特務の一員であると言う自覚を持つべきです。」

顔を伏せて立つ部下に浦原は冷たく言い放つ。
しかし志野から帰ってきたのはギリッという奥歯を噛み締める音。

「なんで何も言い返さへんのですか・・・ッ!副官やのに、何とも思わへんのですか!?」
「それは王属特務の者としての意見ですか。それとも貴女個人としての意見ですか。」

声を荒げる志野に対し、浦原は冷静なまま。

―――だからと言って浦原が本当に何とも思わない筈が無かった。
言葉に詰まった志野に「少し頭を冷やしなさい。」と言ってその場を離れ、萱島が浦原を追うのではなく彼女の元に付いていることを確認すると、左手でぐっと己の胸元を掴む。

「私にどうしろって言うんですか・・・!」

二人には聞こえぬ所まで進んだ先、一人きりで浦原が絞り出した声は酷く掠れていた。

虚の力を持つ死神など危険視されて当然なのだと理解している。
それどころか“王属特務”である浦原には彼の上司について不審に思うところすらあったのだ。
・・・霊王暗殺について。
考えすぎだと言われればそれまでかも知れない。
だが、浦原の頭の片隅では以前霊王暗殺を企てた元部下を追っていた時の記憶がフラッシュバックのように甦っていた。

あの時、血の一滴も付いていない真っ白な長衣を纏っていた青年は浦原が発した「霊王」の一言でその呼吸を乱した。
当時はそのまま気にせず過ごしてしまったが、もし彼の生み出した一瞬の違和感が反逆者故のものだとしたら・・・。
与えられるのは死罪であり、例外は無い。
そうなれば王を守護する者達の長である一護への刑罰はむしろ軽いとも言えた。
だからこそ王属特務のNo.2を努める浦原には反論する資格が無いのだ。
しかし。

「黒崎さん。一護、さん・・・」

どうして貴方が罰を受けなくてはいけないのですか!?と“一護の部下”であり“友人”である浦原が叫ぶ。
無音の慟哭はただその胸の内で行き場を失ったまま響くだけ。

刑の執行まであと半日も無い。
あまりの遣る瀬無さに浦原は壁を殴りつけた。
しかし建物は揺れるどころか白い塗装が剥げることすら無かった。



















どうして世界はこんなにも残酷なのだろう。
(けれど私は世界に絶望する前に、私自身に嫌気が差した。)






















私はどうすればいい?(きっとどちらを選んでも後悔するに違いない。)


(2006.09.11up)
















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