"巨大虚出現。増援頼む。"
現世担当の死神から入った通信により、護廷十三隊の十三番隊から第五・九・十席の三人が緊急にその地へと送られた。 それは頻繁に起こることのない、しかし特筆して珍しいことでもない事件。 ・・・の筈だったのだが。 wirepuller 0 (決して埋まらぬ実力差) 「メノス、だと・・・!?」 目的地に到着した三人を迎えたのは空を覆わんばかりの巨大な黒き悪夢。 連絡を寄越した死神も、その原因となった巨大虚も既に姿は無く、他の二人を率いる立場にある第五席の男は脳裏をよぎった最悪の事態に唇を噛み締めた。 「どうしますか。」 精一杯冷静を装って問うてくるのは第九席の女。 なかなかの女傑だと称される彼女も初めての大虚を前にしては体の震えが止まらないらしい。 右手に斬魄刀を握りながらも、それはカチカチと音を立てていた。 彼女の後ろに控えて此方を見つめる第十席もほぼ同様。 五席の男は己の中途半端な長さの白髪を掻き上げ「くそっ」と毒づく。 「メノスは王属特務の管轄だろうに・・・」 見上げれば三体の大虚。 空を縦に割り裂いて姿を見せたそれは緩慢な動作で同胞・人間見境無く喰らっていった。 「とにかくまずは総隊長殿に連絡を。王属特務が出てくるかどうかはそれから決まるだろう。」 振り返って告げる。 二人はそれに頷き、次いで十席が一歩前に出た。 「我々はどうしますか。」 「現世に留まり魂魄を守る。それが俺達の仕事だ。」 「はいっ!」 恐怖がないと言えば嘘になる。 しかし自分達の使命を果たすという意志の方がもっと強いのだ。 そしてなるべく多くの魂魄が助かるように一刻も早く―――。 そう願い、第五席の男は通信機のスイッチを入れた。 「こちら護廷十三隊・十三番隊第五席、浮竹十四郎です。」 応援はすぐに送られた。 穿界門が開き、まずは地獄蝶が三羽。 すでに戦闘態勢になっているためか、溢れる霊圧は息を呑むほど高い。 これなら、と期待が膨らむ。 だが次の瞬間、聞こえてきた声に浮竹は耳を疑った。 「なんだ・・・ギリアンか。」 ぽつりと面白くなさそうに。 道端の雑草でも目にしたような。 「そ、そんな言い方・・・!」 「やめろ。」 「浮竹五席!?」 現れた者達の言い様に十席が声を荒げる。 それを制止し、浮竹は「申し訳ない。」と三人に対して頭を下げた。 腹が立つのは仕様が無い。 浮竹自身も苦戦している虚をそんな風に言われては己が貶されたと思って暴言の一つも吐きたくなるというもの。 だが護廷十三隊の死神が纏う死覇装とは違う衣装、とくに中央の人物の白い長衣に気付いてしまえば、こうするしか無いのだ。 「いや、構わない。後は我々王属特務に任せてもらおう。・・・行くぞ。萱島、志野。」 「御意。」 「リョーカイ。」 白い長衣の青年の姿が消え、それに萱島と呼ばれた中年の男、志野と呼ばれた女が続く。 ただし。 「ごめんなァ。ウチの特務長、今ちょーっと機嫌悪いねん。許したって。」 女の方は苦笑しながらそう言い残して去った。 □■□ 「志野?何を話してきたんだ?」 「特務長が気にするようなことちゃうよ。ホラホラ、早ぅせんと萱島に全部取られてまうで。」 「あ。萱島!俺の分も残しとけっ!」 「行ってらっさーい。」 護廷の三人と(一方的に)話していたため僅かに遅れた志野だが、見事話題を逸らすことに成功し、ギリアンを倒しに行った特務長を笑顔で見送る。 志野は王属特務のNo.4。 ちなみに萱島はNo.3で副官補佐だ。 現世に来るのは久しぶりで、ちょうど良い息抜きになった。 つい先刻まで大量の書類と格闘していたためである。 仕事モードに入ると冷徹な鬼になる特務長、その特務長至上主義な副官、真面目一本の萱島に囲まれての書類捌きは志野にとって最も辛い仕事。 (それに実のところ、サスガの特務長も飽きてきとったみたいやしね。) 任務の話が来た時、一番に席を立ったのが彼の青年だったのだから。 思い出し、クスクスと笑いを漏らす。 虚討伐という現世での任務だ。思う存分体を動かせると思ったのだろう。 ただし相手がギリアンだと知って青年は少し不機嫌にもなったが。 「ま、ウチが話逸らしたんに乗ってくれたっちゅー事は、それでも動けるだけマシやと思ってくれてるからなんやろうな。」 軽口をたたく“仕事モード解除”な特務長の小さくなった背中を眺めながら志野は「うぅ〜ッ」と両手を広げて伸びをした。 「ああ、エエ天気やね。」 見上げれば雲一つ無い青空。 それに似つかわしくない雑魚は既に退場済み。 虚の気配はもう何処にも感じられない。 (ホンマ、片付けの早いお人や。) 嘲笑ってる訳じゃない。愚弄してる訳じゃない。 これはただの実力差。 |