黒崎家当主。王属特務特務長。霊王の寵愛。白の衣。
その全てを手にした者こそ、この世界で二番目に尊い存在なのだと。 人々が悟ったのは随分前からだった。 wirepuller 0 (王の遊戯と硝子の瞳) 「二班から五班までの配置は?」 「完了致しました。」 「よし。それでは一班、俺と共に霊王の元へ。」 「了解。」 黒色が圧倒的多数を占める空間の中、男は白き衣を翻す青年の後へと続く。 橙色の髪が特徴的な青年の名は黒崎一護と言った。 男と同じく貴族であり、どちらもそれぞれの一族を統べる当主。 そして青年は男にとっての上官でもあった。 己より年若い上官は颯爽と王宮への道を歩む。 霊王を迎えに上がるためだ。 本日、珍しくもあの王が王宮――と言うより、普段生活している特別な空間――から出て、ある遊戯を御覧になるのである。 そのため王の護衛も担う王属特務が周辺の警備も兼ねて駆り出されていた。 一護の副官であり第一班の班長をも務める男は己の外ハネ気味な薄い色の金髪を視界の端に収めつつ、数歩下がった一定距離を保って後に続いて行く。 霊王が居る空間へ入るには王鍵と言われる特別な鍵が必要なため、それを持たない男はあまり一護から離れすぎてはいけないのだ。 男が率いる一班の他の者はその空間の手前で待機。 そして彼らを残し、一護と男の二人だけが王宮へと足を踏み込んだ。 長い廊下を進んで大きな扉の前に辿り着く。 「浦原、お前は此処で待て。」 「はい。」 男―――浦原は一護が見ている訳でもないのに目を伏せて小さく礼。 敬愛の印に相手が見ているか否かは関係ない。これは自分の心の問題だ、という考えのためである。 顔を上げると、一護は正面を見据えていた。 浦原はその背を黙って見つめる。 「霊王、お迎えに上がりました。」 悪趣味だ、と浦原は思った。 目の前で行われているのは虚と罪人の戦い。 右後ろに一護、左後ろに浦原を従えた霊王はそれを楽しそうに観ている。 三人の更にその後ろには霊王の護衛のために控える王属特務第一班の者達。 彼らが居るのは今回特別に設えさせた観覧席で、この試合とそれを観戦する他の死神達全体を見渡せる位置にあった。 虚と罪人、どちらかが傷付く度、周囲からどよめきと歓声が起こる。 もちろん霊王もその表情をより一層楽しそうなものへと変え、満足しているようだった。 そんな中、浦原はチラリと一護に視線を向けた。 霊王と同じく彼の琥珀の双眸は目下の戦いへと焦点を合わせている。 だが、その表情が。 浦原のように顔を歪ませるでもなく、だからと言って他の者達のように楽しんでいる訳でもなく。 全くの無表情で淡々と行く末を見続けていた。 ぞっと体中を悪寒が走る。 まるで精巧な人形のようだ。 唯一、時折瞬きをすることでそうではないと判ったが、本当に感情というものが無い。 普段部下達へと向ける微笑も頼もしい瞳の輝きも、全てが消え去っていた。 もしかしなくてもこの目下の戦いが終わるまで彼が元に戻ることは無いのかという思いが脳裏をよぎる。 (この人は―――) 自分が何を言おうとしたのか浦原にも分からない。 ただもしかすると、彼に対して感じたのは恐怖かもしれないし、哀れみだったのかもしれない。 無表情でいられる事への、そして無表情でいなければならない事への。 これも彼の一部。 |