目蓋越しに降る淡い光。
この身を受け止める柔らかな褥。 全身を苛んでいた痛みは無い。 そして目を開ければ、あまりに鮮明な橙。 wirepuller 0 (覚醒は幸福の兆し) 「おっ、目が覚めたか。」 意識の浮上と共に目を開けると橙色の髪の青年が視界に飛び込んできた。 その顔に浮かぶのは優しげな微笑。 纏う雰囲気とも相俟って酷くこちらを安心させる。 この人が自分をあそこから救い出してくれたのだ、と子供は瞬時に理解した。 意識が朦朧としていたあの時、必死で縋った闇の中の白だと。 「一応やれることはやらせてもらったけど・・・大丈夫か?」 「は、い。・・・ありがとう、ございます。」 「礼はいらねーよ。お前を拾ったのは俺の意志で気まぐれだ。」 子供が起き上がるのを手助けしながら青年は苦笑する。 気まぐれで拾ったなんて人間と言うより犬猫のようだ。 そう思ったが己の助けられた状況を思い出して、その通りかもしれない、と子供の方も笑ってしまう。 「・・・良かった。そんだけ笑えるなら大丈夫だな。」 (あ、琥珀色・・・) こちらの顔を覗き込み、そう囁いた青年の瞳は子供が覚えていた自身の物よりもっと透き通った色をしていた。 橙色の睫に縁取られたそれはまるで磨き上げられた宝玉のよう。 「ん?どうかしたのか?」 「い、いえ・・・あの、」 どうやらずっと瞳を見つめてしまっていたらしく、青年が不思議そうな顔をする。 子供はしどろもどろになりながらもなんとか取り繕れまいかと必死に頭を回転させた。 そして口から出た台詞は。 「あなたのお名前を訊いても良いですか!?」 頭の中が混乱している最中に何かを喋ってもロクなことが無い。 大声でこんな事を言ってしまうなんて、と考えるのと同時に顔が熱くなってくるのも分かってしまう。 「え、うわっ・・・あの、その。何て言うか・・・えっと、」 顔を伏せても混乱の度合いは増していくだけ。 子供は知る限りの言葉を使って胸中で己を罵った。 すると―――。 「一護。」 ぽん、と頭上に手を置かれ、降ってくるのは青年の声。 撫でると言うよりは掻き回すくらいの勢いで髪が乱される。 「俺の名前は黒崎一護。お前は?」 「あ、あの。僕は惣右介と言います!」 顔を上げて――それでも頭は撫でられっぱなしだ――はっきりと名乗った。 名は惣右介。姓は無い。 「そっか。・・・良い名前だな。」 「あ、ありがとうございます。」 正面切って言われると先刻とは別の意味で顔が熱くなる。 きっと真っ赤になっているのだろうと思いながら惣右介は照れ隠しのように笑った。 「名前もそうだけど、とりあえず今居る場所くらい教えとかねえとな。・・・此処は瀞霊廷の中。そんで俺の、黒崎家の屋敷。お前を拾った所から随分北に離れてる。」 「セイレイテイ、ですか・・・」 それは何だ?と思ったが、とにかく自分が居た所よりも北で、そして離れているらしいという事だけは理解できた。 何せ気付いたときにはあの土地に居たのだ。 セイレイテイも何も、この世界のことは殆ど分からない。 「・・・って言っても分かんねぇか。」 「はい。」 顔に出ていたらしい。 すみませんと謝れば、一護が苦笑を浮かべ、ぽんぽんと惣右介の頭を優しく撫でる。 「そんじゃ、少しお勉強してもらうとしますか。ま、文字は最初にきちんと教えるからな。」 後はウチの蔵書でよろしく、と笑う一護に惣右介は瞳を輝かせた。 「よろしくお願いします!」 自分がどんな世界のどんな人物に拾われたのか。 知るのは、もう少し先の話。 (そして人は、この境遇を『幸運』と呼ぶのだろう。) |