wirepuller 3
その日、その時。
破面たちが住まう城は突然の訪問者によって揺れに揺れた。 「よっ!久しぶり。」 ザワッ 銀糸の男と共に現れた少年。 その姿と霊圧を捉えた"仮面を破りし者達"は一斉に殺気立った。 何せその少年の出で立ちは派手なオレンジ色の頭髪に黒の着物と背丈ほどもある大刀。 つまりは先日ウルキオラとヤミーが仕留めずに終わった人物なのである。 その事が原因で同じ破面のグリムジョー達との間にひと騒動あったのも彼らにとっては記憶に新し過ぎること。 しかし。 「い、一護様!?」 ザワザワッ 玉座から立ち上がり血相を変えた主の様子に、皆が一斉に困惑の表情を浮かべて振り返った。 「・・・どういうことですか。藍染様。」 ざわめく辺りに静かで落ち着いた―――否、押し殺した声が響き渡る。 説明を求めたのは玉座を見上げる破面の一人。 頭の左半分を未だ白の仮面で覆っているその彼の名はウルキオラ。 また彼の斜め後ろには下顎を仮面で覆った大男ヤミーが控え、声には出さぬものの二重の意味で驚愕の表情を浮かべている。 何故此処にこの野郎が? そして主のこの様子の理由は? しかしウルキオラの問いに答えぬまま、一瞬のうちにオレンジ色の訪問者の元へとたどり着いた藍染は、 破面達の視線など気にすることもなく少年の目の前で膝を折った。 「申し訳ございません。数瞬であろうとも貴方様より高い位置に座するとは・・・」 「はは・・・なんつーか律儀だなぁ。別に良いのに。」 藍染の謝罪に少年が返したのは苦笑。 それから少年は藍染に顔を上げさせ、隣に立っていたキツネ目の男―――市丸ギンを顎で示して口を開いた。 「ギンに誘われたんでコッチに来てみた。まぁ特に用事があるわけでもねーんだけど。 俺一人じゃ此処まで来れないからな。・・・・・・タイミング悪かったか?」 「い、いえ!そんな事など・・・!貴方様ならいつ何時でも喜んで迎えさせていただきます!」 「そっか?サンキュ。」 そう薄く微笑まれ、常に冷酷さと余裕を滲ませているはずの藍染の顔があからさまに崩れ去る。 少年はそれから、藍染の後方―――つまり目の前にずらりと並び様々な色の視線を向けてくる破面達へと目をやった。 「大部分のヒトにとってはハジメマシテ。そしてそこの二人、コンニチハ。この前はどーも。」 「なぜ貴様が此処にいる。」 「・・・お前は聞いてなかったのか?ギンに連れて来てもらったからに決まってんだろ。」 残った右目と虚ろな左目を向けてくるウルキオラに対し、少年は楽しそうにクスリと笑う。 と、そこに――― 「いい加減にしろよクソガキ・・・!」 声を荒げたのは右頬を白い仮面で覆い色素の薄い髪を逆立てた男。 「止めろグリムジョー。君がこの方にどうこう言う権利も資格も無い。」 その台詞は一護を鋭く睨みつけるグリムジョーへ向けて。 彼の視線を遮るように藍染が立ち上がる。 その後姿にただならぬものを感じ、グリムジョーは口を閉じざるを得なかった。 背をひそりと冷たい汗が流れる。 「藍染はん、過保護すぎとちゃいます?一護ちゃんなら破面からの非難の一つや二つ、そう堪えるモンでも・・・」 藍染の発言の後、シン・・・と物音一つなく静まってしまった空間に明るい関西弁が響いた。 発したのは少年の隣に立っていた市丸。 しかし、市丸の言葉に答えたのは藍染ではなくその少年本人だった。 「違うぜ、ギン。」 「・・・?」 「藍染はグリムジョーから俺を守ったんじゃねえ。俺から“無礼な破面ども”を守ったのさ。」 ニヤリ・と少年の口が弧を描く。 琥珀色の瞳には楽しそうな色が浮かんだ。 「一護様、申し訳ございません・・・なにぶん、自分達の立場をわかっていない者達ばかりでして・・・」 「気にしなくて良いよ、藍染。俺だって自分の体は如何にかしたいし、そのためなら虚どもの血でわざわざこんな所を汚すようなこともしない。」 ―――嗚呼。この方はもしかしなくても、此処にいる破面達を怒らせて遊ぶつもりだったのか。 少年のわざとらしい挑発の言葉に再び殺気を溢れさせた破面達を見やって、藍染と市丸は同じようなことを思った。 確かに、この少年は母親を虚に殺された過去があるからその存在を憎んでいないと言えば嘘になるだろう。 しかし、虚の成り立ちを知っているし何より少年の生来の気質ゆえに“全体”を激しい憎悪で見ているはずもなく。 少年はそんな二人の間に立ったまま、ぶつけられた殺気に瞳の中の歓喜の色をより一層強くした。 「一護様、あまり遊びすぎないで下さいね。」 「わかってるって。殺さないし、終わったら傷も治して記憶も弄くっとくから。」 「そうですか。」 「一護ちゃーん。ほどほどにしたってやぁ。」 「おう。」 藍染・市丸の二人に笑い返し、少年は冷たい石の床を蹴った。 |