wirepuller












「はぁ・・・」


西日が差し込む部屋の中で、その色よりもなお鮮やかな髪を持った少年は、
たった一人、ベッドの上で小さく小さく溜息をついた。
それから虚空を見上げしばらくぼんやりしているようであったが、少年は一度ゆっくりと瞬きをすると
視線を宙に固定したまま誰もいない空間に喋りだした。


「お前、この前のはちょっとやりすぎだぞ。」


返事は、もちろん無い。


「つーか尸魂界の時からそうだ。アレ何のつもり?ザックリいったぜ。ザックリ。
人が避けないからって勢いよく背骨までいきやがって。コッチは結構痛いんだからな?」


しかし、少年は続ける。


「にしても、この前のヤツ。ウルキオラはいいとして・・・ヤミーだっけ?アイツはダメだろ。
あまりにも醜悪すぎる。醜い。それに頭も悪すぎたな。余計な被害出してどうすんだよ。
それにアイツのおかげで俺の大事な人間が三人、随分危ないところまでやられたんだけど?」


少年はそこで一拍置き、うっすらと微笑した。


「この責任、どう取ってくれるつもりかな?・・・・・・藍染。」

「そのことについては、まことに申し訳なく思っております・・・」


突如そこに現れたのは茶色の髪を後ろに撫で付けている男。
黒い死覇装と白い羽織がふわりとかすかに揺れ、それから男が頭を下げた。

その様に、少年は酷薄な笑みを浮かべる。


「まだ着てたのか?その羽織。お前、もう護廷の隊長じゃねーじゃん。」

「それを言われると・・・困ってしまいますね。」


言って、藍染と呼ばれた男が笑う。

もともとの造作も手伝ってだろう。
優しげな笑みが顔に刻まれるが、 それを視界の端で捉えていた少年は眉間の皺を深くしてただ一言、

「キモい。」

と吐き捨てた。



「・・・怒って・・・いらっしゃいますね。」

「当たり前だろ?わかっていたとは言え、痛いものは痛いし大切なものが傷付くのは見ていて辛い。
ただでさえそうなのに・・・まぁ腹掻っ捌いた件は一応保留として、お前の送ってきたアレは・・・・・・」


そこで少年は溜息をつくと、額に手を添えてその隙間から横目で藍染を捉える。

その視線に射すくめられ、藍染はピクリと肩を揺らした。
自分が生きてきた年の何十分の一ほどしか生を刻んでいないその少年。
しかし彼の琥珀色の瞳が自分に向けられるだけで恐怖が全身を突き抜け、
またそれとは逆に、彼の瞳に自分の姿が映っているというどうしようもない喜びが体の奥底から湧き上がってくるのだ。

そんな藍染の様子に少年は不快だと隠しもせず表情を歪め、短く悪態をついた。
そして変わらぬ藍染の様子にもういいと諦めて本来話すべきことのために口を開く。


「とにかく・・・先刻言ったようにウルキオラは良いんだよ。あの霊圧と思考能力。あ、顔もな。
だけどヤミーは・・・アレ、本当に崩玉ちゃんと使ったのか?失敗作じゃねえの?力も頭もダメダメじゃねーか。
あれくらいの俺に腕切られるなんて相当だぜ?しかもコッチは白いのまで中で飼ってるんだから。」

「それは、まだ実験も初期段階ですので。どうかお許しいただければ・・・と。」

「早くしてくれない?俺、暴走するよ?」


刻一刻と大きくなっていく内なる白き者の気配に、少年は哂いながら言う。
その様子にハッとした藍染はなるべく落ち着いた声を出そうとしながら口を開いた。


「それは、もうしばらく。あのウルキオラさえ未だ良いものとは言えない代物です。
それに最終目的は貴方様のお体を治療すること。貴方様がご自身の内なる虚を取り込まれることです。
事は慎重に運ばなくては・・・どうかもうしばらくお待ちください。焦ってはなりません。」


己の立場か、目の前の男の様子か、それともこの世界にある何かに向かってか。
藍染が喋り終えると、少年はそれはそれは綺麗に嘲笑した。


「わかってるよ。」


そう言って。























おまけ





「藍染。お前もう消えろ。」

「はい?」


突然の少年の言い様に藍染が気の抜けた返事を返す。
すると少年は「気づいてねえのかよ・・・」と半眼になってから窓の外を指差して面白そうに笑った。


「浦原がコッチに来てる。」

「え?・・・・・・・・・本当ですね。」


少年に言われて気配を探れば確かに近づいてくるものがある。
自分でも気づくのがやっとのような薄い気配を察知した少年に、 藍染は「貴方はやはり素晴らしい。」と尊敬のまなざしを向けた。

胸に手をやり、藍染は恭しく頭を下げる。


「それでは、厄介事になる前に私はここで。」

「そう言ってる暇があるならさっさと消えろって。俺はあの人に汚い所は見せたくねえの。」


その言葉に藍染は頭を上げた。
少年はこちらをチラリとも見ずにどこか嬉しそうな表情で窓の外を見つめている。
それが気に食わず、藍染は僅かに揶揄の意を込めて少年に語りかけた。


「汚い所は見せたくない・ですか。」


少年が藍染を見る。
その顔は・・・・・・哂っていた。


「そ。俺はあの人にこんな汚い部分を見てほしくない。
あの人は自分が闇だと思っているから、それとは真逆の真っ白で綺麗なものを求める。
だから俺は、あの人の前で綺麗な存在として居続けなきゃァいけねえんだ。」


そう言うと少年は再び窓の向こう側へと視線を向けてしまった。
今彼の瞳に映っているのはたった一人。くすんだ金髪の男だけ。

藍染はぐっと拳を握ると出来るだけ落ち着いた声音で言葉を紡いだ。


「妬けますね・・・貴方にそう想われているなんて。」


そして次の瞬間、もう藍染の姿は何処にも見当たらなかった。
一人になった部屋の中で少年はオレンジ色の髪を風に遊ばせながら小さく哂う。


「お前には妬く資格すらねーけどな。」






















某B様の作品に触発されまくって書いたブツです。

B様・・・・・・ご、ごめ・・・!


ちなみにタイトルバーの文は「藍染→一護」&「浦原←一護」




(以上、JUNKに放置時のコメント。なおJUNKには2005年9月27日にアップ)

















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