最悪ノ未来












「浦原・・・そっちはどうだ?」
「ええ、やはり分離が進んでますね。しかも日に日にそのスピードは速くなっているように感じます。」
「そうか。」

場所は浦原商店。
奥の部屋から中天にかかる月を見上げて一心は小さく唸った。
その顔は医者の表情とも親の表情ともとれる。

「あいつはどうなっちまうんだ・・・」

思い出すのは、自分とは似ても似つかない彩を持った息子のこと。
尸魂界でのゴタゴタの際に極めて危険な物質・崩玉をその身に取り込み、そのまま現世へと帰還した少年に対し、医者である一心は肉体を、科学者であり崩玉を生み出した本人である浦原は魂魄を定期的に検査していたのだが、後者の側から決して見過ごすことの出来ない異常が見つかったのだ。

一護の身体には一護本人の魂魄とその中に居るという虚に近い存在の魂魄(としか例えようのないもの)との二つが内在している。
検査を始めたばかりの頃、それは時に重なり合い、また時に僅かな距離を置くように存在していた。
もともと一つの身体の中に複数の魂魄が存在するということ自体異常ではあるのだが、一護の九歳以降の経験からそれは仕方が無いことだと言える。
だからこそ時に同調し、時に差異を生じるもう一つの魂魄との共存は、その状態こそが正常だと判断することが出来ていた。
しかしそう判断を下してからすぐ後、同調する割合が減少し、代わりにズレが酷くなり始めたのだ。
似たような魂魄だったからこそ今まで一つの身体に収まっていられたと予想される中でその異常を観測した今、この後起こり得る事態の一つに『最悪なもの』が含まれてしまったのである。

このまま二つの魂魄のズレが大きくなるならば、そう遠くないうちに片方もしくは両方が身体から弾き飛ばされてしまう可能性が高いのだ。
その結果、死神の力や霊を見る力を失うだけならまだいい。
親という立場から、片方だけ、つまりあの白い着物の青年が消えてしまうのも―― 一護本人は悲しむだろうが――諦めはつく。
しかし、もし『黒崎一護』を形成する根本が失われてしまったとしたら・・・。

両方の魂魄が身体から弾き出されてしまうならば、待ち受けるのは肉体の死。
また一護の魂魄のみが身体から失われ、もう一方が残ったのならば、それはもう一心の大切にしてきた息子ではないのだ。


「これが杞憂で終わってくれりゃいいんだが・・・」
「そうっスねぇ。」

声色は軽かったが、二人が浮かべた表情はそれにそぐわないものであり、どちらも全く同じ心情であることは明らかだった。
その暗い雰囲気を紛らわすように浦原は口元を笑みの形に歪ませ、なるべく重くならないように気を配って口を開く。

「アタシは引き続き一護サンの霊圧検査を続けます。もしかしたら、そこから何か判るかもしれませんし。」
「ああ、頼む。」
「頼まれました。・・・アタシ、飽き性ではありますけど諦めは悪いんスよ。」
「・・・フッ、そうだったな。」

おどけた調子で告げられた言葉に一心もようやく微かな笑みを浮かべた。






















本人達(一護と白一護)の知らないところで、実はこんなことがあったのです。











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