週ニ一度ノ検診日
一護が魂魄内に崩玉を取り込んだために、これから新たに加わるであろう習慣が一つある。
それは週に一度の割合―――金曜日、学校が終わってから“そこ”へと赴くことだった。 「こんにちはー。」 ガラガラと引き戸を開けて中に入る。 駄菓子と幾つかの生活雑貨を取り扱っている手狭な店内に客はいない。 しかし奥の一段高くなった所、畳敷きのそこにこの店の主人が腰掛けていた。 「いらっしゃい、一護サン。」 時代錯誤も甚だしい格好と、室内にもかかわらず目深に被った帽子。 己の形式上の剣の師である浦原に、一護は挨拶代わりとして片手を上げた。 どもっ、と慣れた様子で靴を脱ぎ、浦原と共に店の奥へと入る。 途中、すれ違ったテッサイに頭を下げ、辿り着いた先は浦原の私室。 「お茶持って来ますから。」と再び部屋を出て行った浦原の背を見送って、一護は畳の上に腰を下ろした。 『検診なんざ、俺がいるから不要だってのに。』 「まあまあ、崩玉に関するプロがいるんだ。そっちに任せといて別に悪いことも無ェだろ?」 白い彼の不機嫌そうな台詞を受けて一護は苦笑する。 この度、崩玉を取り込んでしまった所為で一護の魂魄に悪い影響が出ていないか調べるために浦原の元へとやって来たのだ。 そしてこの訪問は週一ペースで今後も暫らく続くことになっている。 白い彼は一護に不調があれば自分が気付くと主張しているのだが、崩玉の製作者である浦原はそれだけでは不十分だと考えているらしい。 一護と部分的な融合をしたのならば、その彼も崩玉に影響されて変調に気付けない可能性があるから、と。 実は今日これから行われる予定の検診だが、一週間前の夏休み終了直前にもなされていた。 それ以降からだ。白い彼がこの検診に反対を訴えだしたのは。 『一護に触れる手つきが怪しすぎるんだっての。』 「ん?何か言ったか?」 『いや、別に。つーかもう本当、帰ろうぜ?お前がテッサイさんの手作り菓子楽しみにしてんのは知ってるけどよ。』 「・・・菓子につられてどこが悪い。」 『悪いとは言ってねえけど・・・』 まったく、こちらに気にもなってくれ、と我侭な子供を持つ親のように呟かれ、一護は「何がだ。」と首を捻る。 その所為で白い彼からは新たに溜息が落とされた。 部屋に戻って来た浦原が持っていたのはお盆とその上に乗ったお茶と茶菓子、三人分。 どうやら一護の相棒にも、ということらしい。 テッサイさんに後でお礼言っとかねえとな、と一護が心の中で語りかければ、『テッサイさんには、な。』とやや強調するように返される。 そのあと傍らに人一人分の気配が生じて一護が右を向いた時には、既に自分と同じ顔をした、しかし色の異なる人物があぐらをかいて座っていた。 白い彼には物を食べるという動物に必須の動作が不要でありその習慣も無いのだが、自分用に出された物には口をつけるという礼儀を全うすべく姿を見せたようだ。 曰く、『喰いモンとテッサイさんに罪は無い。』らしい。 空気を震わせる音ではなく直接脳内に響いた声に、同じく声帯を使わないまま「そうだな。」と返事をして、一護は浦原から差し出されたお茶と茶菓子に手をつけた。 それにしても、今回出された豆大福の半分以上を一護の皿に移して残りのほんのひと欠片を煎茶で胃へと流し込んだ白い彼は、実は甘い物が苦手だったのだろうか。 ほぼ二人分の大福を手に入れた一護としては嬉しいことだが、さて、白い彼はそれを見越してそのような態度を見せたのか、否か。 ちなみに。 検診はほんの十数分で終了した。 浦原が死神化した一護の胸や背に手のひらを当てて霊圧その他諸々をチェックするだけなのだ。 肉体の方は主に一心が注意を払っているとのこと。 よって浦原商店滞在時間の殆どを雑談withお茶で消費しつつ、その日も一護は陽が暮れる直前に岐路へついた。 「七時までに帰んねーと・・・!」 『メシ抜きだな。』 焦る一護に苦笑しつつ、白い彼は『長居するからだぜ。ほら急げ。』と諭しているのか急いているのかどちらかにしろと言いたくなるようなことを言う。 ただ、浦原に送ってもらえ、と彼が一護に提案することはなかった。 |