新シイ日常ノ始マリ












場所は黒崎家二階、長男の部屋。

「・・・ぅおおう。」

義魂丸をヌイグルミの口へ放り込んだ一護は、魂を得て立ち上がったその姿を見遣り、思わず嫌な汗をかいた。
ゆらりと亡霊の如く立ち上がったのは自称ミラクルボディのコン様。局地的他称ボスタフ。通称コン。
垂れ下がった目玉代わりの黒いビーズがぶらぶらと危なげに揺れる。
その薄っぺらい身体は幾多の戦場を駆け抜けてきた歴戦の兵士よりも悲惨な状況になっていた。

「大変だったんだな、お前も。」
「そう言うなら早く直してくれ。」

かたや同情を多分に含んだシンパシー、かたや諦めの境地に入った溜息のような呟き。
もう一護の反応に対して怒る気も失せてしまったのか、コンはボロボロな体躯でもう一度溜息を吐き出すと、制服を着込んだこの部屋の主に向かって投げやりに手を振った。
行って来い、という意味らしい。
一護はコンの治療役として手芸部部長でもあるクラスメイトの名前を上げ、その人物を家に連れ帰ってくると約束して自室を出た。



時刻は午前7時34分。
登校に必要な物も全て持ち、あとはバスの時間に合わせて家を出るのみとなった時間帯。
一心と些細な事で日常的なじゃれ合いならぬどつき合いをする傍ら、一護は双子の妹の片割れの声を聞いた。

「おにいちゃーん!バスの時間になっちゃうよー!!」
「ああ、ヘーキヘーキ。今日は送ってもらうから。」

父親を渾身の一撃で床に沈めた後そう答えた一護に遊子が不思議そうな顔をする。
床の上で伸びている父親はこれから開院の準備があるので息子を学校まで送ることが出来ない。そして彼以外に一護を高校まで送れるような人物を遊子は知らない。家まで迎えに来るという点ではクラスメイトの数人が当てはまるのだが、それはただの「迎え」であって「送る」ことにはならないだろう。
一体誰に送ってもらえるのかと訊くため遊子が口を開いたちょうどその時、玄関のチャイムがピンポーンとごくありふれた音を奏でた。

「あ、はーい。」
「来たか・・・。遊子、俺が出る。」

早朝からの来訪者に対応しようとした妹を手前で留め、外に立つ誰かを確認することもなく一護が玄関へと足を向ける。
否、遊子には不可能だが、一護にはその姿を視認する前から来訪者が誰なのかよく判っていた。
ガラス戸の向こう側に予想通りの姿を見つけ、一護は気軽に「よっ!」と声をかける。

「にしても、どう見たってホストだろ。その格好。」
「一応これ、普通のスーツなんやけど・・・」

そう言って苦笑を浮かべる銀髪の男、市丸ギンの背後には本日ただ一人の送迎用として用意された国産車が止まっていた。

「まあとにかく、今日はよろしく頼む。」
「こちらこそ。ほな行こか、一護ちゃん。」

落ち着いた色の細身のスーツに身を包んだ男に促されるまま、一護は車に乗り込む。
そして滑らかに走り出す車。
屋内からそれを見ていた遊子は納得したようにポンと手を打ち、呟いた。

「この前引っ越してきたばかりなのに、お兄ちゃんったらもう市丸さんと仲良くなったんだね。」

もし娘のそんな呟きを聞いたならば、彼女の父親は大層苦い顔をしたことだろう。
しかし幸か不幸か一心はあまり気分の良くない霊圧を感知した状態で伸びているだけだった。
遊子が自分の支度のために部屋に戻ってくる。
パタパタと軽い足音をさせながら片割れに声をかけつつ彼女はあっという間に登校の準備を終え、兄に幾らか遅れて家を出た。


暦の上では秋だけれども、地上に降り注ぐ太陽光はまだまだ暑い。
今日は九月一日。


新学期が、始まる。






















「最強少年。2」スタートです。











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