ギンの住む家が決まった。
住所は空座市空座町桜橋―――黒崎医院と同じ通りにあり、しかもそこから歩いて一分の元空き家だった。 『なんでやねん。』 「ボク頑張ったんよ一護ちゃーんっ!」 住所の報告もとい引越しの挨拶と言う名目で現れたギンを客間に通し、お茶を出しながら、一護は頭の中で素早く入ったツッコミの声と嬉しそうな関西弁を同時に聞いていた。 同席はしていないが、一心と浦原の機嫌が悪くなる様子が目に見える。 それにしても現在は具象化せずに一護にしか聞こえない声で喋り続ける白い相棒はいつの間に関西弁を使うようになったのだろう。 それほど長く銀髪の彼と共にいたわけではないはずだが、幾らかギンの話し方に影響を受けてしまったのか・・・。 『誰が影響なんぞ受けるか。これはノリだっつーの。』 一護の思い付きには白い彼本人から即座に否定が入る。 そこまでキッパリと否定するほど嫌なのか。 しかし一応ノリが良いと言うことは機嫌も悪くはないということで、それほど今の状況を嫌っているわけではないのだろう。 あーはいはい、と心の中で適当に返事をしながら、一護は市丸の正面の席に座る。 「で、家は決まったけどこれからどうする?つーか金のこととかどうなってんだ?」 「それなら尸魂界から全額保障されとるよ。無茶な使い方せんかったら何も問題無いみたいやね。」 「じゃあ働かなくてもいいのか。」 「そうやねぇ。下手にどっかで働いたら一護ちゃんの傍におれんようになるしなぁ・・・」 その発言は守護という役割ゆえか、それとも別の何かによるものか―――は、考えずとも解ることだろう。 だがしかし、一護は「あっそう。そうだな。」と素っ気無く相槌を打つにとどめ、少し肩を落とした市丸を気にした風も無かった。 これが“扱いに慣れた”ということなのか。 もしくは崩玉の使用により、実は白い彼の精神が一部、一護のそれと融合してしまったのかも知れない。 なんてな、と考えた一護に白い彼がククッと喉を鳴らした。 『ただ単に、お前がきちんと己の中に受け入れ始めてるってことだろ。相手のことを、さ。』 (受け入れて始めてる・・・か。) 『もしくは相手がちょっとやそっとじゃ自分を嫌わないって信用してるんだろうよ。つまるところ、浦原もキツネも、お前に自分達のことを信じて貰えてるってことだ。』 ―――それならアイツらも本望だろう。 肩をすくめるような気配がして、白い彼からの言葉は途絶えた。 一護に“解答”を与えて満足したのだろう。 解答を与えられたほうの一護も「そうかもしれないな。」と納得して、自分で入れた茶に口をつける。 正面のギンはまだ肩を落としたままだ。 別にそのままギンが気を取り直して話しかけるのを待っても良かったのだが、なんとなく一護は先程白い彼から言われた言葉を思い出して、己から口を開くことにした。 「なぁ、ギン。」 「ん?」 呼ばれて、ギンが顔を上げる。 たった一声でガクリと落としていた肩が元に戻っていた。 現金な奴め、と呆れているのか嬉しいのか、よく解らない感情のまま一護は続ける。 「この前、買い物くらいには付き合ってくれって言ってただろ?俺、ちょうど今日ヒマなんだよな。だから、」 「ホンマに!?」 「お、おう。」 身を乗り出して顔を近づけてきたギンに多少引きつつもそう答えると、キツネ目がさらに細くなり、そして目尻が下がって嬉しそうに笑みを浮かべた。 「ほな、今から行こか!」 「ちょっと待て。」 立ち上がって一護の手を引くギンに、第三者からの声がストップをかける。 この部屋には一護とギンの二人しかいないはずだったのだが・・・。 そう思ったのはギン、そして一護の方は「おいおい。」という表情を浮かべながら“最初からこの場にいたけれども姿を見せなかった人物”に視線をやった。 一護の視線もしくは霊圧に気付いたのか、ギンもすぐにそちらを見る。 二人の視線の先にいた存在。それは一方に良く似た容貌をしていた。しかし基調とする色は白。 つまり、一護の相棒である白い彼が具象化していた。 「お前、いきなり出てくんなよ。つーか何だ?」 「俺も行く。」 「なんでやの!?」 どうせいつでも一護ちゃんと一緒なんやからわざわざ姿見せんでもエエやん!と抗議するギン。 しかしそれを無言のもとに一蹴し、「別に良いけど、ただの具象化じゃあ普通の人には見えないんじゃねーの?」と言う一護に対して白い彼はにこりと笑みを浮かべた。 「大丈夫。俺も義骸、浦原に用意してもらってるから。」 「いつの間に!?って言うかなんで!?」 「・・・特定事項に関して俺達、同盟関係にあるからな。」 「意味不明だ。むしろお前ら何やってんの、と言いたい。」 「これも全て一護のためなんだぜ?」 「知るかよ。」 何となく大変なことになるだろうことが予想でき、一護は大きく溜息をついた。 この事態も予想していなかったと言えば嘘にならなくもない、かも知れない。 いや、はっきりと言おう。やっぱりな、と。 胸中でそう呟いた一護は現在、様々な店が集まっている街の中心地に来ていた。 先程から他人の視線が痛いような気がする。 加えて自意識過剰かも知れないが、人々、特に若い女性を中心に何か噂されているような。 自分の髪色のせいで他人から余計な視線を集めることはあるが、今回ばかりは己が原因などではないだろう。 「ぜんぶお前らのせいだ・・・」 低く呟く。 小さかったその声に、しかし一護にピッタリとくっついてくる三人は気付いてしまったらしい。 三者三様にどうかしたかと問うてくる彼らを視界に納め、一護は眉間の皺を深くした。 金、銀、白。 なにこれ本当に日本人の頭?(正確には日本人どころか『人間』と定義するのも危ういところだが、その辺りは言葉の綾ということにしておこう。) 他人の事を言えたギリではないが、染めたわけでもないのに目の前の三人は見事な髪色を街の空気に曝している。 一護と買い物に来たギン。付き添いを希望した白い彼。その白い彼に義骸を渡す際、話を耳にして自分も付いて行くと主張して譲らなかった浦原。 三人とも外見上の年齢と時代に合わせた格好をしているが、奇異の目を引き寄せるには十分過ぎる姿だった。 ましてこうやって固まって行動していれば、余計にそうなるだろう。 加えて、白い彼は己と同じ顔をしているのでノーコメントだが、同性の一護から見ても残り二人は決して悪くない顔のつくりをしている。 これも女の人に見られてる原因なんだろうなぁと思いながら一護は「なんでもない。」とやる気なさげに手を振った。 (はいそこ、そこのおじょーさんがた。嬉しそうにキャイキャイはしゃがない!) 何がそんなに嬉しいんだ、と内心呟く。 そんな一護に白い彼が肉声ではない方で言葉を伝えてきた。 『さぁて、なんでだろううな。』 いかにも答えを知っています的な言い方である。 そして口元に笑みを浮かべながら白い彼は一護にぴったりと寄り添い、藪から棒に一護の肩へと腕を回した。 途端、先程のお嬢様方プラス他の人々からの視線が強くなる。 「俺ら他人から見たら仲の良い双子だよなー。」 「そう思ってないように聞こえるのは俺の気のせいか?」 「さあ?」 突然の暴挙に目を剥いた大人二人を気にすることも無く、白い彼はくつくつと喉を鳴らして笑った。 |