死神の力を手に入れた。
斬魄刀の名は『斬月』と言うらしい。 あの白い着物の青年に引き合わされたその人物は、黒い衣装を纏いサングラスをかけた長身の男だった。 その二人から斬術・白打・鬼道・歩法を最初から叩き込まれ、現実世界の時間でおよそ十日たった頃だろう。 時間軸を弄った精神世界で徹底的にシゴかれたおかげか、虚など簡単に切り伏せられるようになっていた。 それでも彼らからすればまだまだ・と言う事らしい。 いつも厚い雲が立ち込めて暗い暗い精神世界。 空からは冷たい雨が降り注ぎ、この世界を凍えさせていく。 この天気はお前の心の現われだと言われたが、それもそうかと納得するくらいオレの心情とピッタリあっていた。 Repentant Words
その日もオレはいつも通り――と言うほど長期に渡ってやってきた事ではないが――虚を退治して家路に着いた。
辺りも寝静まった真夜中。 小学生にはキツイ時間帯の出現に少々八つ当たりの意も込めて虚を両断し、 見事に真正面からその中身をくらってしまったオレは、体に戻った後もその生暖かさを拭えずに ベッドの上で小さく小さく毒づいた。 ―――今回も親父は来なかった。 まだ心のどこかでは期待しているのだろう。 死神ならば虚が現れた時にその力を振るうはずだ。 何より彼は自分にこの名前をつけた人間。 だけどやはり来なかった。 何故来ない? 何故虚相手に戦おうとしない? イラつき、頭をくしゃりと掻き回す。 「・・・・・・・・・風呂入ってこよ。」 しばらくの間じっとしていたが、気持ち悪いしイラつくしで、そうポツリと呟いた。 家族は全員寝てしまっているだろうからゆっくり静かに階下へ降りる。 床の軋みもさせないよう慎重に進んでいると、薄く開いたドアからほの暗い明かりが漏れているのに気が付いた。 あの部屋には冗談のような母の遺影がある。 部屋の中には人の気配。 興味を引かれてゆっくりゆっくりそちらに足を運んだ。 ドアの隙間から中を窺う。 (あっ・・・) いたのは親父。 遺影の前に立って何事かを呟いている。 それを斜め後ろから眺めるような状態のまま、オレは耳を澄ませた。 「真咲、本当にすまない。もし・・・なんて今更言っても仕方ねぇがやっぱりそう考えちまうよ。 あの時俺に力があったならお前を死なせずに済んだのに!あいつらを・・・悲しませずに済んだのに! ・・・・・・どうして肝心な時、俺はこうなんだろうなぁ・・・。真咲・・・俺はどうすればいい?どうすればこの罪を償えるんだろうな?」 その台詞に心臓が凍った。 全身が一気に冷たくなって、ゴクリと息を呑む。 親父の手には酒の入ったグラス。 ああ酔っているのか・なんて頭の片隅で考えながらも目を離せずにじっとその背中を見詰めていた。 「・・・・・・真咲・・・」 ほろり・・・と。 親父の頬を流れるもの。 一度零れだしたそれは終わりがないように後から後から続いていった。 初めて見た。 それは、自分の父親の泣き顔。 大きな背中が小さなものに見えた瞬間。 そして理解する。 彼は―――・・・ 救わなかったのではない。救えなかったのだ。 助けなかったのではない。助けられなかったのだ。 護らなかったのではない。あの人は・・・護りたくても護れなかったのだ。 『一護・・・空は暗くなくなったのに、まだ雨が止まねぇんだ。』 あの青年の呟きが聞こえ、オレはそこから視線を逸らした。 ―――ごめんなさい。 誰に向かっての言葉とも知れず、口の中だけでそれは紡がれ消えていく。 きっとしばらく雨は止まない。 晴天はまだ、望めない。 |