「好きです。」



何を言われたのか理解できなかった。












Egocentric Feelings











「・・・は?何、言って。」
「何って、そのままですよ。アタシは黒崎一護サン・・・アナタが好きなんです。」


昼間、語られることなく終わった話。
それを聞きに浦原の部屋へ行けば、一護の耳に入ってきたのはそんな言葉。

“あの時”に自分は黒崎一護を想っていると気づいたのだと語る浦原だが、 その声は一護に何かをもたらすこともなく、ただ思考を素通りして消えてしまった。

沈黙が部屋を支配する。

一護は俯き、そのために二人が視線を合わすことも叶わない。
微動だにしない目の前の子供の様子に浦原が伺うようにその名を呼んだ。

「黒崎サン・・・」

しかし沈黙は破られない。
浦原は一度だけゆっくりと瞬きをし、そうして再度一護に語りかけようと口を開いた。

「黒崎サン、アタシはキミが好きだ。 この想いを受け入れて欲しいなんて言いませんし、そもそも言えません。 ただ、これはアタシのエゴなんです。キミに知っていて欲しかった・・・こんなアタシの感情を。」

「アンタが、俺を・・・好き?」
「そうです。・・・アタシが、キミを、好き、なんです。」

俯いたまま返してきた一護に浦原は殊更ゆっくりと告げる。
己の気持ちがちゃんと伝わるように。
己の想いがしっかりと染み入るように。

しかし―――

一護が僅かばかり顔を上げる。
眉間にはいつも通りの皺が刻まれているが、その両目には今まで浦原が見たことのないものが映っていた。

それは、拒絶。

「黒崎、サン・・・?」
「嘘だ。」
「はい?」

断定の形で言い切られた言葉に浦原はただ疑問で返すしかない。
そんな浦原に一護はもう一度確かな口調で告げる。

「嘘、だ。それは。」

その台詞に浦原は言葉を失った。

今やしっかりと顔を上げて一護は帽子の影から覗く翡翠色の瞳を見つめている。
ただし浦原から見た琥珀色のそれは、口から出されるもの同様、絶対的な拒絶を宿していた。

オレンジ色の髪の下でその表情が皮肉げに歪む。

「嘘だ。アンタが俺を好き?この、俺を? 親父と仲が良いなら知ってるはずだろ?どうして・・・どうして俺のおふくろが死んだのか!」

『一護、それはお前のせいじゃ・・・』
(うるさい!お前は黙ってろ!!)

いつにない剣幕で姿なき相棒を怒鳴ってから一護は「はっ!」と己という存在を嘲笑した。

「おふくろは虚に殺された?だからおふくろが死んだのは虚のせい? ・・・っよく言うぜ!どうして霊圧を隠すのも上手かったおふくろがみすみす殺されなきゃなんねーんだよ! 俺がいたから・・・!俺がいたから、俺がこんなんだったからじゃねーのか!?」

抑えきれぬ激情のまま一護は壁を殴りつける。
たった一度しか壁にぶつけられなかったのにその拳からは赤いものが流れた。

「おふくろが死んだのは俺のせいだ!俺は・・・俺は人殺しなんだよ! おふくろを死なせた!おふくろを殺した!護ると決めた大切な人を自分の力で殺したんだ!!!」

血がついたままの手で一護は浦原の衣服を掴む。
ただ、瞳は逸らして床を見つめながら震える声で「なぁ、」と呟いた。

「その俺を好き、だって?・・・・・・俺が好かれてんのか?ヒトゴロシの俺が。 ・・・・・・っ俺には、そんな資格なんか無い! 他人に好きだなんて言ってもらえる権利も何も持っちゃいないんだ・・・!」







「・・・・・・・・・るな。」

上手く聞き取れない言葉に一護は顔を上げる。
突如、降って来たのは目の前の男の聞いた事も無い大声だった。

「否定するなっ!!!」
「・・・っ」

両肩を掴まれ、そのあまりの強さに体が悲鳴を上げる。
これは怒りだ。
一護がそう直感しても既に遅く、浦原は力を緩めることなく叫んだ。

「ええ!キミの事情は知っていますよ!でもね、それが何だって言うんですか!? キミが人殺しであろうが何であろうが、 アタシが黒崎一護を好いているということだけは誰にも―――キミ自身にも否定させない・・・!!」

両肩を激痛に苛まれながら、それでも一護は浦原の言葉に叫び返す。

「うるさいうるさいうるさい!!アンタに俺の何が分かるってんだよ!? ただ知ってるだけで何も・・・!肝心なことは何も解ってなんかいないくせにっ!!」

「解りませんよ!アタシはキミじゃありませんしね! そんなの当たり前のことでしょう!?人は他人のことなんかちっとも理解できないイキモノなんだから! でも・・・だから!知って、好きになって、それから解りたい・って思うんじゃないんですか!? アタシはそうだ! キミを知った。キミを好きになった。そして、キミを少しでも・・・少しでも良いから、解っていきたい・・・!」



相変わらず両肩の手は力を込められたまま。
本人の手が白くなるほど。
けれどいつの間にかその手は戒めるものではなく、縋るような形でその場所にあった。

自分の目線の位置に来た金髪を視界の端に捉えながら、一護はポツリと零す。


「・・・・・・・・・・・・勝手だ。」
「・・・性分、ですから。」

僅かに遅れて返される小さな声。

「アンタ、馬鹿だよ。」
「ええ。死んでも治りません。」

「・・・呆れた。」
「アタシもです。」


一護は天井を見つめ、「はぁ」と息を吐いた。

いつの間にか肩を掴む手はそこに添えるだけとなり、温かさを伝える役割だけを果たしている。
痛みは無い。ただ、温かい。




「好きです。」
「・・・・・・・・・」

返答は沈黙。

「一護サン。」
「・・・なんだよ。」

名前を呼ばれた。















「愛してます。」


























「勝手にしろ。」



















やっと告白したよ・・・!(ぐったり)

浦一と言い切れるかどうかわかりませんが、とりあえずはここで一区切り。

後は尸魂界へGOですね。おそらく。

って、おお。浦原さんが一護を名前で呼んでる!(お前が驚くなよ)

この場限りだったりしてねぇ・・・アハハ。

白い相棒殿は一護の感情優先なので一応はゴチャゴチャ言いません。一応は(ェ)

良かったね浦原さん。義父その一は何とかクリアできるみたいだ。


そんでもって下に何かあったり無かったり。























弁解はいらない。慰めたりもしない。
キミが悪いというのなら、それがキミの真実だ。

でも、だからどうした?

そんな人間を好きになったのは私だ。
私がキミを好きだということに、そんなものは関係ない。

好かれる資格?
そんなもの誰にもあって誰にも無い。

ただ、否定はさせない。
この想いを否定して良いのは私だけだ。
キミではない。

何も解っていない?
当たり前だ。
そういうイキモノなんだから。

だから知っていきたいと思う。

嗚呼、馬鹿だね。
知ることは酷く辛いことだ。
幸せを感じられるなんてほんの一握りの分しかない。

それでも。

私はキミを知っていきたい。
私はキミを、知って生きたい。






















「Egocentric Feelings」つまり「自己中心的な感情」とは恋愛感情のこと。

恋愛とは、誰かのためにではなく自分のためにするもの。感じるもの。エゴの塊。












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