利用して、利用されて。
立場を知ろうとしても、判断材料は少なすぎて。 そうして、疑問はくだらない予測を伴ってただ増えていく。 Nonsense Talking
最初に違和感を感じたのはいつだったのか。
それは分らないけれど、明確にオカシイと思ったのはあの時―――空座町に大虚がやってきたときだ。 実際この目で見たわけではなく、全てはその本人から聴いた話なのだけれど。 自分が駆けつける前、ルキアが一匹の虚相手に攻撃系の鬼道・白雷を放った。 しかしその威力はあまりにも小さく、雑魚に大したダメージも与えられなかったらしい。 彼女は此方に来て義骸に籠ってから二ヶ月ほど経過している。 義骸は霊力を回復するために使うものだ。 それなのに、術の威力がそれだけとは・・・ いくら番号が一桁台の鬼道であっても弱すぎる。 つまり言ってしまえば、義骸に入っているにもかかわらず、彼女の力はいっこうに回復していないようなのだ。 いや、もしかすると前より弱くなっているかもしれない。 前に義骸との連結が上手くいかないと言っていたルキア。 しかも、内魄固定剤を使っても一時は問題なくいくが、しばらくすれば元に戻ってしまうのだという。 「なんか特別な仕掛けでもしてんのか・・・?」 彼女の義骸は“あの”浦原喜助の作品だ。 普通とは違う仕掛けの一つや二つ、簡単につけてしまうだろう。 もしかしたら、霊力回復が出来ない・・・下手をすれば霊力が減っていくような細工でもしているかもしれない。 しかし――― 「それに何の意味がある? 虚は倒されていてもルキアが現世から帰って来なきゃいつかは尸魂界も不審に思う筈だ。 現にメノスの相手をしてる時、隠密機動の監視もあった・・・。 永久追放された身としちゃァあまりそういうものには関わりたくない筈だ。」 と疑問を口に出し、相棒に「どう思う?」と問いかけてみる。 『さぁね・・・天才の考えてることはわかんねーよ。ま、“ただの男”として行動してる可能性もあるけどな。』 そう言って、楽しそうに笑った。 例え顔を見ずとも、ニヤニヤと意地の悪い笑みでいるのが容易に想像できる。 「あー・・・確かにそういう可能性も無きにしも非ず・か。」 ただの男としての行動――― 浦原喜助が科学者として何かを企んでいるのではなく、 一人の女性を想う男としての考えで、ルキアがアチラに帰れない状況を作り出しているとしたら・・・ いや、何がどうであれ、そこら辺はぶっちゃけ自分にとってどうでもいい事なのだが。 「でも、見た目的に犯罪か。」 自分の考えに苦笑。 まあ、とにかく。 そういう風に考えてみれば、浦原喜助が黒崎一護という「死神」を何に利用したがっているのかにも一応見当はつく。 『お前は嬢ちゃんを出来るだけ此方に留めておくための道具ってか?』 「・・・かもな。 代わりに俺が虚を倒していれば、何もしねぇよりアチラさんがルキアの異変に気づくのが遅くなるだろ。 それに、ルキアが連れ戻された時、俺が尸魂界に乗り込んでって奪還することもできねぇわけじゃないし。」 『まぁな。』 「ついでに言うと、下駄帽子が自分の手で虚を殺るより俺がやった方がアイツの立場にとってもいいはずだしな。」 そう言って、しかしながら「ふぅ」と小さな溜息。 何を考えても、結局全ては想像の産物だ。 真実は本人だけしか知らない。 此方が「何故?」と思っていても、今のところその正確な答えが返ってくることはない。 今回思いついたのは周りの状況から考え出されたくだらぬ仮想。 現実はその影すら此方に見せてはくれない。 自分は一体何に利用されようとしているのか。 そんなこと、砂一粒分もわかりはしないのだ。 思考は迷路を驀進中で、胸はなんだかもやもやと気持ち悪い。 「くだらねー」 ボソリ、と小さく吐き出した。 何か溜まったものを外に出すように。 しかしちっとも良くならないまま、その言葉は空気に溶けて、そして消えた。 |