不可解な感情。
名も無きソレ。 彼の全ては私を掻き乱すばかり。 Noname Emotion
「浦原はいるか?」
「あら、イラッシャイマセ朽木さん・・・と黒崎サン、でしたよね?」 やって来たルキアの後ろに立つ人物。姿を見るまでも無く彼だとわかった。 この垂れ流し状態の霊圧―――黒崎一護だ。 改造魂魄の件で一度顔を合わせただけだが、巨大な霊圧といい目を引く容姿といい、かなり印象に残る人物である。 浦原の疑問系のセリフにルキアが「そうだ」と答え、一護と共に浦原商店の引き戸をくぐった。 初めて訪れた場所がかなり珍しいらしく、一護は辺りをきょろきょろと見回す。 彼は高校一年生のれっきとした男子なのだが、 その様子がどうにも可愛らしいと思ってしまう自分に浦原はこっそりと苦笑。 (目は良い方なんスけどねぇ・・・) 「で、朽木サン。本日のご用件は?」 「内魄固定剤を・・・そうだな、20本。支払いはこれで頼む。」 とルキアが携帯電話もとい伝令神機を懐から取り出した。 「わかりました。それじゃ、今から持ってきますんで、ちょっと待っててくださいね。」 「わかった・・・だそうだ、一護。しばらく待ってくれ。」 「へ?あ、あぁ。」 ルキアに話しかけられてはっとする一護を見て、浦原はやはり可愛いという印象を抱いてしまう。 (戦う時はあんなに凛々しいのにね。) そう思いつつ、浦原は店の奥へと姿を消した。 浦原の姿が消えた後、ルキアは一護に向き直って口を開いた。 「どうした一護。さっきはボーっとしていたようだが。」 心配そうにするルキアに、一護は笑って「何でもない」と返す。 (下駄帽子見て、やっぱ隊長には見えねぇ・なんて思ってたこと、言えるわけねぇよな。) 浦原本人には些か失礼な考えだとは思いつつ、そう見えるのだから仕方ない・と一護は自分を納得させた。 「にしても駄菓子屋・・・なのかな、ここ。なんか懐かしー」 そう言いながら一護は棚に置かれている飴玉などの菓子を見て回る。時々「これ食ったことある」などと言いながら。 と、突然店の戸が開かれた。 「あれ?黒崎君・・・と朽木さん?」 現れたのは一護と同じ年頃の少女。それと小学校低学年らしき子供が二人。 入って来てすぐにその子供達は並べられた駄菓子に目を輝かせ、どれを買おうか頭を悩ませ始める。 棚の近くに居た一護は自分の両脇にやって来た彼らに場所を譲り、その少女に視線を合わせた。 「・・・えっと誰だっけ?」 「あれ?わかんない?」 言われて一護はクラスにいたようないなかったような・とほとんど覚えていない学校の生徒の顔を思い出そうとして・・・ 結果、失敗する。 「悪ィ。わかんねぇや。」 と謝る一護に少女は「あれー?」と言って少し悲しそうに笑った。 「私は橘まり。黒崎君と同じクラスだよ。」 「え・・・うわ、ホントごめん!俺、人の顔覚えるの苦手でさ。」 「いいよいいよ。」 バツが悪そうにする一護にまりは「これから覚えていてくれればいいよー」と微笑んだ。 それからまりは、今日は近所の子のお守りとしてココに来た・等々話し出した。一護はそれに適当に相槌を返していく。 そんな中、近くでその二人を見ているルキアはどうにも不快で仕方なかった。 何か黒いものが自分の中に溜まっていくのを感じ、眉をひそめる。 少し離れた所で黙って立っているが、今すぐ二人の間に入って一護を連れて帰りたい衝動にかられた。 (これが嫉妬というものか・・・?) そう思いつつモヤモヤとしたものを抱えていると、店の奥から浦原が現れた。 「朽木サンお待たせしました・・・って、お知り合いっスか?」 一護と立ち話――と言っても一護は相槌を打っているだけだが――をしている少女に目をやり、 表情を隠して浦原が尋ねる。 それにルキアは眉をひそめたままで「同じクラスの女子だ」とだけ答えた。 「そうですか。」 浦原が返す言葉もたったそれだけ。 ルキアの気のせいだろうか。なにやら機嫌がよろしくないように感じられる。 浦原とルキアが会話している間にまりが連れてきた子供達の買い物が済んだらしい。 店主と共に店に出てきたテッサイが会計を済ませ、彼らはまりの腕を引っ張って商店を出ようとしていた。 「っと・・・それじゃあね、黒崎君。また学校で。」 「おう。」 一護が頷くのを見て、まりは笑って店を後にした。 「一護、そろそろ帰るぞ。」 「了解。あ、荷物は俺が持つから。」 一護が浦原から荷物を受け取る。 「それじゃ、確かに。」 浦原とテッサイに見送られながらルキアが戸を開け、荷物を持った一護がそれをくぐった。 「では今日はこれで。」 「ありがとうございました。」 ルキアの言葉に続くように一護がぺこりと頭を下げる。 「また来てくださいね。黒崎サンも、どうぞ今度は遊びにいらしてくださいな。」 なぜかそんなことまで言って浦原は二人を送り出した。 テッサイを店に残し、奥に引っ込んだ浦原がポツリと零す。 「何故でしょうかねぇ・・・ひどく腹立たしかったのは。」 一護が少女と話しているのを目にしたとき、なぜか無性に腹が立った。 ワケが解らない・と唸る浦原。 彼に答えを与えてくれる者はまだいない。 |