「さて、そろそろ行こかな。」
そう言って席を立つ。 が、それを見咎めて優秀な副官が目を吊り上げた。 「なに言ってるんですか!仕事全部終わらせてからにして下さい! 机にあるやつ、明日の午前中までに提出なんですよ!いつもいつもサボって・・・!今日と言う日は絶対に・・」 「もう終わっとるよ。」 「そうですか。それじゃあ残り全部片付けてから・・・って、へっ!?」 隊長の言葉が信じられない・と言ったように目を見開く副官。 それにギンは苦笑してもう一度言う。 「だからな、此処にあった分は全部やったって言ってん。これならもう上がってもエエやろ?」 おまけに「ボク、今日は頑張ったなぁ」なんて付け足しながら 机の上にあった書類の束・・・というよりも山をぱしぱしと叩くと、 イヅルは無言のまま席を立ち、その書類を確かめ始めた。 ぱらぱらと紙を捲る音。中々速いテンポに、おぉ優秀・と思ってみたり。 そうして全てに目を通した後、イヅルがふらりとよろめいた。 彼はギンの方を見て、 「ほ、本当だ・・・隊長、一体どうしたんです!?熱でも有るんですか!?」 と心配そうな顔をする。 (そんな、熱って・・・なんか傷つくわぁ。) 大して傷つきもしないがそんなことを考えてみた。 しかし今日は行きたい所があるのでそれを口に出すことはやめておく。 わざわざ無駄な問答で時間を潰す必要はないし。 なので「熱は無いよ」と言ってギンは詰所を後にした。 「ほな、提出よろしゅうな。イヅル。」 そう言い残して。 Your Truth
「こんにちは〜」
ドアではなく窓から顔を覗かせ、お目当ての人物に自身の訪問を知らせる。 ギンが外から覗き込んでいる部屋の主、つまり本日彼が会いに来た人物はコチラに振り向き、 すでに癖になってしまっているらしい眉間の皺をさらに深くして口を開いた。 「市丸ギン・・・」 どうやら一ヶ月前に教えた名前はきちんと覚えてくれていたようだ。 なんとなく、嬉しい。 (・・・あれ?もしかしてボクって結構単純?) それはあまりよろしくないなぁ・なんて思っていると、聞こえてきたのは大きな溜息。 多少雰囲気が大人びていようが、未だランドセルを背負っている子供がするようなものではないだろう。 「一護ちゃんどないしたん?溜息なんかついて。幸せ逃げてまうで?」 からかうように言えば、一護はその萱草色の髪を片手でかき混ぜながら「誰のせいだ」と呟いた。 「それで?一体何の用?」 別に喜んでやっているわけではないだろうが、きちんと体ごとコチラを向いて問いかける子供。 中々に礼儀の行き届いた様子。感心感心。 「ん〜特に用はないんやけど・・・しいて言えば一護ちゃんに会いとうなった・とか?」 (“しいて言えば”は余計なんやけどね。) 本音は言わない。 これはもう既に癖として身についてしまっている。 「何で疑問系なんだよ。んなモン俺が知るか。」 「一護ちゃんったら冷たいわー。せっかく真面目にお仕事終わらせて現世まで来たのに・・・」 嘘泣きを始めたギンに突き刺さるのは子供の冷たい視線。 「つまり、いつもは真面目に仕事してねぇのかよ。アンタ。」 と半眼で。さらに溜息のオプションつき。 (ホンマ幸せ逃げてくでー・・・ってボクのせいか。) 「まあまあ。そこは気にせんとv」 「あっそ。まぁアンタの仕事のことなんか俺はどーでもいいんだけど。 ・・・・・・ところで何でアンタは俺なんかに会いたがるんだ?毛色は違うかもしんねぇが、ただのガキだぜ?」 自分のことを「ガキ」だなんて言える位には大人。なのに首をコトリと横に傾げる仕草は幼い子供そのもの。 それは無意識のものか。 (何やスッゴイ可愛らしいんですけど・・・) 思っても口に出さないが。 「ただのガキとちゃうよ。一護ちゃんは。」 「・・・そうか?」 一護が答えるまで一瞬の間が空いた。 何か隠し事でもあるのだろう。しかしそれは人間なら当然のことだ。 だから、追求はしない。 「そうやで。一護ちゃんの霊圧は特別。 それはボクにとってだけかも知らへんし、他のヒトにとってもそうかも知れへんけどな。」 「ふ〜ん。で、一体どこら辺が“そう”なんだ?・・・霊圧ってやつ?そんなに人と違うのか?」 「うん。一護ちゃんの霊圧はな・・・ん〜何て言ったらエエんやろ。 そうやな・・・最初に感じたときはな、ちょっときついぐらいやねん。一瞬うわってなってまう。 初めて一護ちゃん見かけたとき、ボク、キミの隣に立つん躊躇したもん。すぐに慣れたけどな。」 「ふんふん。」 ちょっとは興味を持ってくれているようだ。 ギンが話している最中に丁度良く相槌を打っている。 (霊圧云々の前に、ただ可愛らしいから・ってのも追加やな。) 「でな。一回体験してまうと、それがすっごい気持ちエエというか、安心するというか・・・落ち着く? う〜ん・・・やっぱり何て言ったら一番適切なんかわからんわ。でもホント、イイんよ。一護ちゃんの傍は。 出来ることならずっと一緒に居りたいなぁって思ってまう。」 ちょっと大げさかもしれないが、麻薬みたいや・なんて思ったこともある。 一度覚えてしまうと、もうアウト。 会えない間中、ずっと落ち着かない。 それは滅多に下りる許可が出ない現世に有るものだから更に厄介。 「そ、そうか。」 とだけ答えて俯いてしまった一護。 萱草色の髪からのぞく耳が少し赤く染まっている。 「かわええなぁ一護ちゃんは。」 それを見てギンがクスクスと笑った。 「なっ!?」 一護がほんのり赤くなったままの顔を上げる。 「それは男に言うセリフじゃねーだろ!?つーか失礼だぞ!!」 「そう?でもホンマのことやし。」 「お、オマエなぁ!!」 そう言って、怒りの表情で立ち上がる一護。 「おぉ〜怖っ・・・それじゃ、そろそろお暇させてもらおかな。バイバーイ。」 「二度と来るなっ!!」 もしかして初めて会ったときにも言ったかもしれない怒声を投げつけて、一護はギンの姿が消えるのを見ていた。 |