「・・・何やこれ。」
仕事を抜け出して現世に下りた途端、この身に感じた圧倒的な霊圧。 人間にしては些か大きすぎるそれにひどく興味を持った。 Orange Fox
「へぇー・・・この霊圧、キミのなんか。」
斜め後ろからの明るい関西弁。 声をかけた人物は黒い袴の裾と白い羽織をふわりと揺らし、子供の前に回り込んだ。 ランドセルを背負ったオレンジ頭の子供を上から下までじろじろと見て、それからどこか感心するように言う。 「6年生くらい?今までよう生きてられたなぁ。」 高い霊圧にもかかわらず生きている・・・それは一般的に"虚に襲われなかった"ということを示す。 「不思議なこともあるもんや。」と呟き、その人物は子供の歩調に合わせてゆっくりと歩きだした。 さらりと風に吹かれる銀色の髪。 それが夕日に照らされて子供と同じオレンジ色に染まっている。 しばらく経ってから銀色の青年は子供の目の前に手を翳してヒラヒラと振りだした。 しかし――― 「このくらい霊圧高いんやったら、ボクのこと視えてもいいと思うんやけどなぁ・・・」 何の反応も無いまま歩き続ける子供を見て少し残念そうに呟く。 それでもしぶとくやっていると、突然パチンとその手が叩き落とされた。 「え・・・」 驚いた青年は己の手に目を向け、それから視線を移し叩いた張本人―――オレンジ色の子供を凝視した。 その瞳は琥珀色で、両目はしっかりと青年の姿を捉えている。 青年が唖然としているのをよそに、子供が不機嫌そうに眉をしかめて口を開いた。 「アンタ一体何?さっきから邪魔なんだけど。」 子供らしからぬ、やや大人びた口調と表情。 「キミ・・・ボクが視えるんか?」 「視えるし触れるみてぇだな。」 「うわ〜スゴイなぁ。死神にさわれる人間がおるなんて。」 「そりゃどうも。」 嬉しそうな青年とそっけない子供。 しかしセリフに含まれていた“死神”という異質な単語に反応することなく子供が返したことに青年は不振がる。 「キミ、あんまり驚かへんのやね。もしかしてボク以外にもこういうヒトに会ったことあるん?」 「そんなことどうでもいいだろ。・・・俺は家に帰るんだから、アンタもさっさと帰れよ。」 突き放すように言って、子供がテクテクと歩き出した。 それに並ぶように青年も歩きだす。 「えぇ〜もうちょっと遊んでぇな。ボクまだキミとサヨナラしたないわ。」 「うるせーな。俺はキツネとなんか遊びたくないんだよ。」 「き、キツネ!?ひどいわぁ・・・ボクには市丸ギンっていうちゃんとした名前があるんやけど。」 どこからともなくハンカチを取り出し、それで目を拭う仕種をするギンに子供は深い溜息をついた。 「・・・あーそうですか。それでは市丸さん、ココでお別れです。さようなら。」 「い・や・やvそれに市丸なんて呼ばんとギンって呼んでぇなv」 「キショい。」 「ヒドっ!!」 「いいから早くどっか行ってくれ。」 漫才のような会話に子供は再び溜息。 それでもギンは面白そうにその様子を眺めやる。 腰を曲げて子供と視線を合わせ、機嫌良さそうに疑問を口にした。 「キミ名前なんて言うん?教えてくれへん?」 「それ教えたら帰るのか?」 「ん〜どうやろ。」 子供が出した交換条件にハッキリした答えを出さないギン。 その様子に子供は「ふ〜ん」と呟き、そして続ける。 「じゃあ教えねぇ。」 どこまでもそっけない子供。 仕方なく「まぁボクの方が大人やからね。」とギンが折れた。 「しゃあないなぁ・・・そんじゃ、教えてくれたら今日のところは帰りますわ。」 「・・・今日のところは?」 「それくらいエエやん。」 そういうギンに子供は本日三度目の溜息を零す。 「わかったよ・・・俺は黒崎一護。」 「・・・苺ちゃん?」 「違う!苺じゃなくて一護だ!あと“ちゃん”は不要ッ!」 「かわええやん。一護ちゃん。」 発音は治しても「ちゃん」をつけたまま呼ぶギンを一護は眉間のシワを深くして睨みつけた。 「かわいくねぇ!あと名前教えたんだからさっさと帰れ!!」 「ん〜嫌やけど約束やしな。ほなまたな、一護ちゃんv」 「もう来るなっ!!」 バイバーイと手を振るギンに一護はこめかみに青筋を立てて叫ぶ。 それを面白がってニコニコと笑いながら「開錠」と告げて門を開き、ギンはその向こう側へと姿を消した。 尸魂界へ繋がる扉が消えて一護は一人きりになる。 「なんか疲れた・・・精神的に。」 そして肩を落とし、一護は4度目の溜息を深く深く吐いた。 「・・・幸せ逃げまくり。」 |