夜と雨と、そして赤。
Red Rain
side-White
それは闇。 彼の子供に巣食う底なしの闇。 彼の子供を取り込む底なしの闇。 子供は未だ闇の中。 白き者も黒き刃もただ行く末を見守るのみ。 引き上げる者は現れず。 引き上げる者は、現れず。 無機質な世界。 そこにシトシトと雨が降る。 白い着物を纏った青年は一人佇み、ポツリと呟いた。 「あぁ・・・またか・・・」 見上げれば、漆黒の空から降り注ぐ液体。 肌に当たるそれは生暖かく、己の衣を真っ赤に染め上げていく。 「やっぱりお前は自分を責めるのか。」 彼と同じオレンジ色の髪までもが赤く赤く染まるなか、名も無き青年はただ一人のことを思う。 自分を責めて、その身を傷つける少年のことを。 「そんなんじゃ、治癒の鬼道も上達するはずだよなぁ・・・」 雨の夜。 少年は自ら赤い液体を流す。 贖罪の赤を。 正気を保つための赤を。 明日になれば、何事も無かったかのように振舞う子供。 明日になれば、傷一つ無く元気に笑う子供。 それでも、今は――・・・ 赤い雨はまだやまない。 青年の頬を、雫が音も無く滑り落ちた。 side-Black 赤よ。 この身を巡る赤よ。 生きている そしてそれは、罪の証。 右手に力を込めて引くと、左腕に赤い線が走った。 もう一度。 今度はさらに力を込めて。 左腕には二本の赤い線。 そこからじわりと液体が溢れてきた。 溢れた液体は腕を伝い落下する。 白い洗面器に真っ赤な花がいくつも咲いて、それは溶け合い形がわからなくなった。 その光景を見つめる瞳に光はない。 琥珀色の闇を抱えてその場所に収まっている。 時折しかめられる眉は痛みのためか。 それとも脳裏をよぎる光景のためか。 ドクドクと脈打っては「生」を伝える傷。 「俺ならよかったのに。」 淡々と語られるセリフは無意識のもの。 それ故に、その言葉は少年の本心。 「どうして、俺じゃなかったんだろう。」 琥珀色の闇は沈黙を続け、両の目は乾いたまま白かったモノを見る。 「俺が、死ねばよかったのに。」 そうして目蓋の奥に琥珀色の闇を隠し、耳を澄ませて遠くに聞こえる雨の音を捉える。 「今日はこれでオシマイ。」 口調は未だ淡々としたもの。 そうして右手に淡く光が灯り、それを左腕にかざすと傷は瞬時に癒えた。 腕に付いた液体を水で洗い流し、目の前の赤も水をかけて白に戻す。 贖罪のために赤を流し、守護のために赤を止める。 それは雨の夜に繰り返される、過去への懺悔と明日への誓い。 |