恋次からルキアのことを託された後、一護達はそのまま懺罪宮に向かおうとした・・・が、しかし。
近づいてくる複数の霊圧に気づいた一行は余計な争いを避けるため地下に身を潜めてそれをやり過ごすことになった。 サクボウノカイメイ
「花太郎。お前、岩鷲のこと治せるか?」
「あ、はい。大丈夫です・・・岩鷲さん、こちらへ。」 先の弓親との戦いでかなりの重傷を負っていた岩鷲は素直にそれに従う。 一護は早速治療を開始した二人の様子を、壁に背を預けた体勢で見やり、やがてそのままゆっくりと目を閉じた。 (さて、これからについてだけど・・・) 『このまま嬢ちゃんを助けに行ってもなぁ。』 (ああ。まだ刑の執行前だからルキアの中には崩玉が残ったままになってるだろうし、 今の状態でアイツを助けても本当に助けたことにはならねぇよ。) 『ついつい此処まで来ちまったけどな。』 流されるまま来てみたが、まだ時期ではなかったと白い彼が苦笑する。 考えてみれば、意外と簡単なことだったのだ。 藍染惣右介は崩玉を手に入れたがっている。そして、その崩玉はルキアの魂魄の中。 しかも現在、彼女は異例とも言える方法・双極での処刑に処されようとしている。 ・・・これは一角がルキアを「極囚」と呼んだことからも明らかだ。 双極の熱破壊能力があれば外殻である魂魄を完全に蒸発させる事が出来る。 そして、その刑罰を決定するのは中央四十六室。 『藍染の斬魄刀の能力“完全催眠”があれば四十六室を皆殺しにでもして乗っ取る事も可能だ。』 (つまり、藍染は双極でルキアの魂魄を消し去る気か・・・。でも、それを阻止すれば―――) 『次いで“組成に直接介入”の出番だな。』 (浦原の分野か・・・) 魂魄自体を傷つけずにその中の異物質を取り出す方法があると浦原が言っていたのを思い出し、 合わせて白い彼から聞いた事実も記憶の底から引っ張り出してくる。 中央四十六室のいる中央議事堂には大霊書回廊という知識の宝庫がある。 そして、その中にはもちろん浦原の研究について書かれた物も納められている筈だ。 となると、藍染がその摘出方法を知ることも不可能ではない。 むしろ双極が失敗した場合に備えて既に―――。 ルキアの中から崩玉を取り出すために彼女の魂魄を蒸発させてしまっては元も子もない。 ならば一護達のすべきことは双極による刑の執行の阻止。 そして(些か賭けの部分もあるが)藍染に崩玉を摘出させ、それを奪う。 もしくは藍染が持っているであろう“魂魄内の異物を取り除くための道具”を奪って一護自身がそれを使う。 前者と後者、どちらになるかはその場の状況によるだろうが。 『結局のところは双極をぶっ壊して処刑できなくさせなきゃなんねーわけだ。 つーことで、双極を壊せる時が来るまで・・・封印が解かれるまで待つ必要があンだよなぁ・・・』 (ははっ。・・・それまでの時間、どうやって潰すよ?) 『まぁ適当にドンパチやるなり、俺がお前をしごくなり・・・そんなもんか。』 “しごく”というところで一護の頬が一瞬引きつったが、生憎それに気づく者はいない。 (ドンパチか・・・。そういや、なんか他の連中も色々やらかしてるみてーだけど・・・) 瀞霊廷のあちこちで霊圧のぶつかり合いを感じとり、一護はふと胸中で呟く。 雨竜と織姫は・・・まぁ大丈夫だろう。二人とも元々頭のキレる人間であるし、早々無茶はしない筈である。 チャドは・・・第三席くらいまでなら余裕だろう。 ただ、頑張り過ぎるという事が無いわけではないので、そこのところは心配でもある。 どうか皆がハズレくじだけは引きませんように・などと願いつつ、一護はスッと目を開けた。 「お。花太郎、終わったのか。」 手当てに使っていた道具を片付け始めていた花太郎を見やり、一護が片眉を上げる。 さすが救護担当。随分と手際が良いようだ。 一方、治療されていた岩鷲の方は、麻酔か何かを使われたのだろうか、横になり深めの呼吸を繰り返している。 つまり眠っていた。 声をかけられた花太郎はその眠っている岩鷲にちらと視線を戻した後、再度一護の方を向く。 「はい。後は少し休んで体力を回復すれば充分です。一護さんは・・・」 「俺は平気だ。これといった怪我も無ェしな。・・・んじゃ、お前もしばらく休んでくれよ。ありがとな。」 「いえ、そんな。・・・それじゃあ、お言葉に甘えて。」 壁に背をくっつけるようにして寝転がった花太郎に、一護の口元には知らず知らず笑みが浮かぶ。 穏やかで、そしてあまりにもかすかなそれは外から見て気づける者などいなかっただろうが、 “内”の世界の者にとっては、やわらかに吹く風が何よりも明確に「王」の今の心情を物語っていた。 |