夜が明ける。
徐々に空が白みだし、そして純白の光が大地を射った。 トツニュウノトキ
「"彼方"!"赤銅色の強欲が36度の支配を欲している"!!」
「始まったぞ!!霊力を込めろ!!」 空鶴の詠唱が始まり、夜一の声によって皆が一斉に霊珠核へと霊力を込める。 少しの抵抗の後、全員を包み込むように発生する霊子の膜。 砲身が揺れ、その振動は徐々に大きくなっていく。 「"72対の幻" "13対の角笛" "猿の右手が星を掴む"!!」 ドンッと一際大きく揺れ、中の全員に着火を知らせた。 そして。 「"25輪の太陽に抱かれて砂の揺籃は血を流す"―――花鶴射法二番!!!"拘咲"!!!」 射出。 霊珠核の機能なのか予想されるほどの衝撃もなく空高くに打ち上がる。 しかし自然落下が始まる寸前、今度は砲弾がいきなり地面に水平に飛び始めた。 慌てる皆に岩鷲が説明を始める。 行われた射法は、岩鷲が今から砲弾の加速と軸調整を行わなくてはいけないらしい。 空鶴が「先の口上」で打ち上げから方向決定を担い、砲弾内の岩鷲が「継の口上」で後をコントロールする。 また砲弾の軸を安定させるために全員の霊力の放出量を一定にしなくてはならないということなのだが、 それを聞いた一護は内心「マズ・・・」と冷や汗を流した。 霊力の放出量の調節など一護が最も苦手とする分野である。 しかしそんな中、岩鷲が「ミスったら終わりだ!」と言い、継の口上を開始してしまう。 (ヤバイです。) 『一応頑張ってから諦めろ。』 (おう・・・って諦めるの前提!?) 『無理なモンは無理だからな!』 白い彼にも言い切られ、一護はやけくそで霊力のコントロールに挑んだ。 結果――― 「こうなっては仕方ない!!全員でありったけの霊力を込めるんじゃ!!少しでも砲弾を硬くしろ!!!」 軸調整の失敗。 夜一の声によってとりあえず強度だけは異様なまでに高められた砲弾が遮魂膜に激突した。 空は光り、衝撃が瀞霊廷中を揺るがす。 遮魂膜にぶつかったことで砲弾を形成していた霊子の膜が溶け、一護達に絡みつく。 それはほんの少しの間だけ全員を空中に留める役割を果たしたが、すぐに渦を巻いて皆を引き離そうとし始めた。 「それぞれ近くにおる奴を掴め!!絶対に離れるなよ!!」 一護と岩鷲が互いを掴み、一護の肩に夜一が乗る。 チャドは織姫を抱きかかえて雨竜にも手を伸ばすが、寸でのところで渦に引き離された。 「・・・く・・・!」 「茶渡くんッ!?」 織姫を渦の中心に向けて離し、チャドは外側へと飛ばされた雨竜の方に向かう。 そして雨竜のマントに手が届いた瞬間、織姫に向かって彼を投げ飛ばした。 「わあぁぁぁあああ!?」 「ん!」 雨竜をキャッチした織姫はその先のチャドへと視線を送る。 しかし。 「さ・・・茶渡くん!!」 「チャド!!」 織姫と一護がその名を呼ぶ中、チャドは一人渦の外へと弾き飛ばされた。 「・・・・・!」 「案ずるな!奴なら必ず生き延びる!! それよりも!下で奴を探したくば、まず自分達の安全を考えろ!!」 チャドが飛ばされた先に視線をやって唇を噛む一護に夜一が一喝を与える。 くそっ!と吐き捨てた一護は岩鷲を左手に抱えたまま織姫へと手を伸ばした。 「井上!!」 「黒崎くん!!」 織姫も雨竜を抱えたまま一護へと手を伸ばす。 その手が触れ合う寸前――― ドォン!! ついに溶けた砲弾が破裂した。 その衝撃で織姫と一護の手は触れ合うことなく弾き飛ばされる。 一護と岩鷲、織姫と雨竜、チャド、そして夜一。 五人と一匹は四組に別れて瀞霊廷の四方に散った。 |