空鶴に言われ、一行は地下の練武場で霊珠核を用いた砲弾作成の訓練に励んでいた。
先程地上で霊子の膜を作る事が出来た一護はそんな他の三人の様子を部屋の隅で見守りながら瞼を下ろす。 瞼に遮られ、訪れる仮初の暗闇。 それが次の瞬間、白一面に塗り替えられたかと思うと、一護は高層ビルが真横から生える奇妙な世界に立っていた。 「制御の訓練か?」 「おう。」 背後。 声と共に現れる見知った気配。 目的語を欠いた問いに短く答え、一護は後ろを振り返った。 立っていたのは自分と似て非なる人物。 眼球の配色と着ている死覇装の色が反転した様なその人物は一護と視線を合わせると口角を上げてニイッと笑う。 「努力家なこって。」 「ただの気休めだっつーの。」 完璧な霊圧制御のためにはまだまだ時間がかかる。こんなもんじゃ足りねぇ。 肩をすくめ、苦笑する。 そして一護は一度だけゆっくり瞬きすると白い彼に真剣みを帯びた目を向けた。 「んじゃ、お付き合い頼むぜ。」 真横に伸ばされた腕の先に黒く渦巻く光の塊が現れる。 白い彼もそれに合わせるように、ゆるく立てた指先へ小さな光を灯した。 「オーケイ。」 生まれた高揚感が体中を巡っているのを感じる。 そして相手から一瞬たりとも視線を逸らさず、そのまま二人同時に腕を振るった。 ヒメラレタケツイ
「・・・お?」
「どうした?」 霊圧制御の訓練――もとい、鬼道ではなく自らの霊力をそのまま相手へと放ち、 その時の放つ力の強さを上手くコントロールする・・・というかなり変わったことをやっていた二人であったが、 突然一護が動きを止め、何かに気づいたように上を見上げた。 新しく放とうとしていた手のひらサイズの光の塊を消し去り、白い彼もそれに習う。 感じたのは“一護”に寄ってくる一人分の気配。 少し離れた所では未だ織姫・雨竜・チャドの三人が砲弾作成の訓練中。 ならコレは――― 「・・・岩鷲か。」 「あ゛?・・・ったく、何だってんだ。」 「何でお前が不機嫌になるんだよ。」 「俺、アイツ嫌いだし。今も邪魔されたし。」 「・・・そーとーだな。その嫌悪っぷり。」 「当然。」 「バッチリ肯定しやがって・・・んじゃ、俺行くから。」 「んー」 喋りながら徐々に薄れていく一護の姿へと白い彼が答える。 そうして完全に見えなくなった後、今度一護が眠ったら夢に出て行ってやろう・などと白い彼が思ったか否かは・・・ 定かでは、ない。 一瞬だけ目の前が白に染まり、次に仮初の暗闇。 精神世界から意識を表層に戻した一護がパチリと目を開いた。 「起きてたのか?」 「最初から寝てねーよ。」 目の前に立つ岩鷲を見上げて一護が返す。 岩鷲は「そうかよ。」と呟き、次いで数歩移動して一護から少し離れたところに腰を下ろした。 「どいつもこいつも随分必死ンなってんな。・・・そんなに大事か? その“今から助けに行く死神”って奴のことが。」 「さぁな。俺はあいつ等じゃねーし。 でもまあ、井上とチャドは俺の所為で力に目覚めたんだけど・・・二人とも優しいからその力を使って手伝ってくれてるんだと思う。 石田はどうだろうな・・・あいつは二人と違って死神を嫌ってる。 ここに来た建前は、以前負けた死神を倒すためらしいけど・・・あいつも根はいいヤツだから。」 ―――つまりはアレだ。俺の理由だけで三人を巻き込んじまったワケだよな。 改めて出た答えに一護自身、僅かばかり顔をしかめた。 そんな一護を横目に捉え、岩鷲が口を開く。 「ならお前はどうなんだよ。」 「俺?」 「結局お前が来たからあいつ等も来たんだろ?お前がその死神を助ける理由は?」 「俺の理由、か・・・あんまし深く考えた事はなかったけど・・・」 特訓中の三人を視界におさめながらスッと一護の目が細められた。 「護るって決めたんだ。絶対に・って。 だから何があっても処刑なんてさせねーし、出来れば笑って幸せに生きて欲しいと思う。」 (そのためなら俺の秘密がばれたって構わねぇ。 護るために隠してきたことだけど、そのために誰かを護れなくなるなんて本末転倒も甚だしい。) 胸中で呟き、一護は細めていた目を元に戻す。 そんな一護をいつしか凝視していたことに気づき、岩鷲はバッと顔をそらした。 しかし記憶に残ったのその表情が、瞳が、 目の前の死神は他の死神とは違うのだ・と岩鷲の脳裏で確かに告げる。 岩鷲はガシガシとバンダナの上から頭を掻いて立ち上がった。 そして一護から顔を背けたまま小さな声で告げる。 「そうか・・・・・・頑張れよ。」 「お?・・・おお。」 その言葉に目を見開く一護。 岩鷲の背を視界に捉え、何が・としばらく考える。 そして――― 「恥ずいこと言っちまった。」 自分の台詞に赤面した。 |