一護の顔を見てしばらく固まっていたものの、はっとした岩鷲が殴りかかってくるという騒ぎはあったが、
その拳は一護に難なく避けられ、さらに空鶴からの制裁も下されて、それは一応の終結を見た。
またこの時、一護も空鶴にキツイ視線を向けられ、彼女に対する恐怖が植えつけられたためか、 一護と岩鷲の間には奇妙で微妙な共感が生まれたりもしていた。 シンニュウノケイカク
「おれの名前は志波空鶴・・・流魂街一の花火師だぜ!」
最初に案内されたのとは別の部屋。 殺風景なその場所で、空から一護たちを瀞霊廷内にぶち込むと宣言した女性は 巨大な筒状のものが伸びている台座の上でそう高らかに言ってみせた。 「金彦!銀彦!!上げろ―――!!!」 唖然とする一行をよそに空鶴が上に向かって叫ぶ。 すると振動と共に床が迫り上がり、また天井が開いて青空がのぞいた。 ドォンとひときわ大きな音を立て、床の上昇が止まる。 完全に地上に出た一護たちは驚きの表情であたりの草地を見渡し、そんな彼らに空鶴は得意げな様で口を開いた。 「ビビッたかガキども!!こいつが志波空鶴専用巨大花火台!!」 「花鶴大砲だ!!!」 空鶴の後を継いで、岩鷲。 「勝手に台座に乗るんじゃねェっ!!!」 「ごめんなさい!!!」 意気揚々と台座の上で片腕を上げていた岩鷲は、そうして空鶴に蹴り落とされた。 「こっ・・・こんな時に何の冗談を言ってるんです!? 花火師だか何だか知らないが、そんなもので僕達を打ち上げる!?どうかしてる!!」 台座の上の空鶴を指差し、確かに最もな意見を言う雨竜。 しかしそんな雨竜に対し、一護は「うわー・・・」と拙そうな顔をした。 (・・・空鶴さんには口答えしちゃァいけねーってのに。) そして案の定。 「そんなことしたら絶対に死っ」 がんっ いつの間に取り出されていたのか。 鶴の模様が入った人の頭くらいの大きさの玉が雨竜の頭にクリティカルヒットした。 倒れた雨竜を後目に、跳ね返ってやってきたその玉を両手で受け、一護は投げた本人へと視線を向ける。 「これは・・・」 「『霊珠核』だ。そいつに掌を押し当てて霊力を込めてみろ。」 『これに霊力を込めて砲弾にするんだな。』 (あ、そうなんだ?・・・んじゃ、さっそく。) 掌に意識を集中させる。 ちり、と指先に熱が溜まったような感覚の後、霊珠核を通じて一護の霊圧が一気に膨れ上がった。 「うわっ!」 「きゃ!」 「なっ・・・!」 霊珠核とそれを持つ一護を中心に、半径5メートルは優に越える霊子の膜。 放出された力に大気がビリビリと静電気を帯びる。 「・・・っあ、くそ。」 未だ霊力の調整を不得手としている一護は、ついつい出しすぎてしまった力を抑えようと再度意識を集中させた。 ギュオッという音がし、広がっていた霊力が凝縮する。 ちょうど人一人分を包み込むような大きさになった霊子の膜の中で、一護がふう、と安堵の溜息をついた。 「おいガキ!お前いきなり何やってんだ!」 「す、すいません!」 空鶴からの叱責にビクリと背筋が伸びる。 一護は「ひえー」と内心大量の冷や汗を流した。 (やっちまった・・・!) 『あー・・・まぁ仕方無ェだろ。』 ―――扱いづれェモンは扱いづれェんだから。 相棒の言葉に幾分心を落ち着けるが、台座を下りて近づいてくる空鶴を視認し、再び嫌な感じに鼓動が速くなる。 「あ、あの・・・」 「あァ?なんだ。」 「いえ、なんでもないです。」 押し黙り、一護は空鶴の動向を見守ることにした。 空鶴は一護の作った球体の前まで来ると、それをコツンと軽く叩き、残りの者達に視線を向ける。 「これが砲弾だ。」 「砲弾・・・」 雨竜をはじめ、皆が唖然とそれを見た。 「いいか。よく聞け。 テメーらは瀞霊廷をガードしてるのは周囲に張り巡らされた瀞霊壁だけだと思ってるかもしれねぇが、そいつは間違いだ。 瀞霊壁ってのは尸魂界でも希少な『殺気石』っつう霊力を完全に遮断する鉱石でできてる。 だから壁に霊力で穴をあけて中に入ることはできねぇ。 その上、この『殺気石』ってやつは厄介なことに切断面からも霊力を分解する波動を出しやがるんだ。 つまり、瀞霊廷はその波動で空の上から土の中まで球体状に障壁が張られてるってことだ!!」 「そ、空から地中まで・・・」 雨竜は息を呑み、空鶴が「そうだ。」と先を続ける。 「当然、そんな所にただ飛んでっても霊子でできてるおれたちはチリになってオシマイだ。 そこでコイツの出番だ!こいつはおれの開発した特殊硬化霊子隔壁発生装置! おまえら全員でこの球体に霊力を込めれば一時的に瀞霊廷の障壁を突き破るぐらいの砲弾が作れる! そいつをこの花鶴大砲で打ち上げて、一気に内部へ突入するって寸法だ!」 一護の作った霊子の膜にガンッと拳を打ちつけ、空鶴ニッと笑った。 「多少荒いやり方だが他に方法は無え!以上だ!何か質問のある奴!」 返るは無言。 「なら解散!」 そして空鶴が手を打ち鳴らす。 「地下練武場で霊力集中の練習に入れ!」 |