浦原商店の地下に作られた“勉強部屋”に降りた一護たち一行。
その空間の広さに――とくに織姫が――驚いたのもつかの間。
浦原の合図で突如として現れたのは、幾枚もの紙で覆われた4本の柱のようなものから成る巨大な何か・・・穿界門だった。
4本の柱上のものが出現した際に舞った砂埃。
それが治まらぬうちに、浦原が真剣みを帯びた声で語りだした。

「よーく聞いといてくださいね。 これから教えるのは、この門を死なずに通り抜ける方法・・・・・・・・・・・っス。」












ハセルオモイ











浦原の説明が終わり、誰もがその至難さに言葉を無くしていた。

制限時間は4分、そして“拘流”という障害付き。
そんな過酷な条件で目的地に到着するにはどうすればいいのか。
本当に尸魂界へ行くことは可能なのか。

皆と同じ思いを抱えながら、その中で最初に口を開いたのは織姫だった。



「・・・どうすればいいんですか。」

決意を秘めたまっすぐな瞳。
そんな彼女に一護は心の中で賞賛を送る。

(女の人って強ぇんだな。)
『だな。・・・って、お前だけなら別に問題なんか何もねぇだろ。』
(それは瞬歩を使ったらのハナシ。そして俺は瞬歩で二人以上の他人を背負って行くつもりなんてゼロだ。)

一護一人だけなら、もし断界にいる“掃除屋”拘突が出てきても瞬歩で楽に突破できるであろう。
しかし織姫・チャド・雨竜の三人がいるためにどうなるかわからない。
一護が誰かを背負って走ればいいのかもしれないが、それでも定員は一人。
加えてチャドにいたっては体格的に無理と言える。
その条件下では流石に自分でも断界を抜けるのは難しいと結論付けた一護は それでも未だまっすぐな瞳で打開策を問う織姫に対し、やっぱり凄いな・と内心呟いた。

そして、そんな織姫の問いに答える声が一つ。

「前に進むのじゃよ。」
「・・・夜一さん・・・!」

現れたのは闇色の毛並みと金の瞳を持った一匹の猫。

「言ったじゃろう。心と魂は繋がっておる。大切なのは心の在り様・・・前に進もうとする意志じゃ。」
「前に進もうとする、意志・・・」

己へと刻み付けるように織姫が呟く。
黒猫―――夜一はそんな彼女の様子に小さく頷き、そして尸魂界に向かう四人へと視線を走らせた。

「案内役は儂がつとめよう。 迷わず、恐れず。立ち止まらず、振り返らず。 遺してゆくものたちに想いを馳せず・・・ただ前に進むのみ。 それができる奴だけついて来い。」

夜一の強い声と瞳に誰かが息を呑んだ。




ジャリ・・・

砂の擦れ合う音がして一護が一歩前に出る。

「言われなくとも此処に集まった時点で心は既に決まってる・・・なんて言うと思った?」

「く、黒崎くん?」
「一護・・・?」
「黒崎!どういうつもりだ!?」

一護の発言に夜一は無言で眉根を寄せ、織姫・チャド・雨竜はそれぞれ疑問の眼差しを送る。
それを苦笑しながら受けた一護は「だからさ・・・」と己の言葉に続けた。

「俺たちは人間だぜ?迷いもするし恐れもする。立ち止まったり振り返る事だってしょっちゅうだ。 そして、こっちに遺して行く人たちにヤになるくらい大きな想いを馳せることも・・・。 でもさ。だからこそ帰って来ようと思えるんじゃねえの? 全部やり遂げて、そして大手を振って絶対に遺した人たちのところへ帰ってやるってな。」

「・・・・・・ふむ。これは一本取られてしもぅたようじゃ。」

一護の台詞が終わると、夜一はそう言ってクスリと嬉しそうに笑った。
だが、その瞳はすぐに細められ剣呑な輝きを見せ始める。

「しかし・・・わかっておるのじゃな、小僧。負ければ二度と此処へは戻れぬぞ。」

向かう先がどのような所か・・・それを知っているからだろう。
重い言葉と共に、鋭い眼光が琥珀色の瞳をまっすぐに射抜いた。
そんな夜一の様子に、しかし一護は不敵な笑みを浮かべる。



「勝ちゃいいだけの話だろ!」

「・・・その通り!」



黒猫も同じ表情で笑った。
























無理矢理何かを捻じ曲げたような音がして穿界門の両端に光の柱が現れる。
高さは門の半分ほど。
そしてそれを作っているのは浦原とテッサイだ。
それぞれ膝をついて光の根元に手を当てている。



「用意はいいっスか?開くと同時に駆け込んでくださいね。」

浦原は一護たちに視線をやり、そう告げる。

「わかった。」

それに一護が応え、帽子の影から覗く翡翠色を見返した。
しかし徐々に緊張が高まっていく中、一護たちが立つ場所よりも少し後ろから唸り声のようなもの。
・・・猿ぐつわをされたコンである。
先程一護が死神化をする際にひと騒動起こしてからそのままにされていたのだ。
そんなコンに、一護は振り返らず名を呼ぶ。

「・・・コン。」
「!」

真剣な響きにコンも大人しくなって一護の背中を見つめる。

「こっちの事は頼んだぞ。」

コンは―― 一護から見る事は出来ないが――体全体を使って大きく頷いた。
そんな時に、一護の頭の中で声が。

『一護、その言い方は誤解を招く。』
(そっか?俺の体の管理よろしくなって意味なんだけど。)

家族や周りの人の安全ついては一心と浦原がいるので大丈夫だろう。
しかし問題は一護自身の体である。
魂魄が抜けている状態ではずっと寝ているようなものなので、栄養の摂取と運動を行う事が出来ない。
栄養は点滴で済ますことも可能だが筋肉の衰えを考えるとコンに入ってもらって動かすのが良いのである。
ということで、一護は先程の台詞を言ったのだが―――

『まぁいいけどね。』

言い直すつもりはどちらにも無いようだ。
ちなみに一心から受け取ったお守りは後でコンに渡してくれるよう浦原に任せている。

改めて気を引き締め、一護は浦原を見た。
そして小さく頷きあう。

浦原が自分の手元を見つめ力を込めた。

「いきます!!」

「おう!!!」























一護たちがいなくなった地下の勉強部屋で、穿界門の前に浦原が佇んでいる。
ゆっくりと右手を伸ばし、開かれた門に手を触れようとするが―――



バチンッ



大きな音と共に弾かれ、その手には指先から掌へと火傷が広がっていた。
一部、酷く焼け焦げた所から煙。
そんな右手を静かに見つめ、拳を握る。
それからゆっくりとした動作で浦原は門を見上げた。



「―――任せましたよ―――・・・」

















・・・黒崎サン・・・






















ヲトメ浦原?











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