真実を話そう。
言う必要のないことかもしれない。
それでも、それが一番良いと思うから。
何より自分が言いたかったから。












シンジツトヤクソク











「黒崎サン、実はもう一つお願いしたいことがあるんスけど・・・」

そう言って、浦原は一護に視線を合わせてきた。
呼び方を「センセイ」から「浦原」に変えた後。
それを頼んだ時とは全く様子が違い、どうにも申し訳なさそうな表情で伺ってくる浦原に一護は軽く首をかしげる。
浦原の言うお願いとは何なのか。
思い当たることもなく、疑問符を浮かべるだけの一護に向かって浦原が言葉を続けた。

「朽木サンを連れ戻すついでに、ある物も一緒に持ち帰って欲しいんです。」
「ある物?」
「ええ。本来なら朽木サンを連れ戻した時に一緒について来る様になってるんスけど・・・。 でも、取り出されてる可能性も充分にありますから。その時はお手数ですが。」
「どういうことだ?」

本来ならルキアと一緒についてくる?
でも取り出されているかもしれない?

肝心な所が見えてこない浦原の言い様に一護はますます首をかしげ、眉間の皺を増やす。
そんな一護を前に浦原は口を開き―――

崩玉ほう ぎょく。」
「・・・は?」

たった一言。
浦原の口から出た単語に一護は思わず間抜けな声を出してしまった。

(崩玉って・・・・・・あの崩玉?)
『それ以外は知らねぇぜ?』

声を出さずに尋ねれば、白い衣を纏った相棒がそう返す。
一護が知っている“崩玉”は、かつて技術開発局初代局長つまり浦原喜助によって作られた物質の名称である。
そして、その効果は――――――虚と死神の境界線を取り払う。
瞬時に死神を虚化させ、そして虚を死神化させ得る――当時も今も――常識を超えた物質だった。
あまりにも危険すぎるその性質ゆえに作った本人がその破壊を試みたが、結果は。

『壊せねぇから防壁をかけてどっかに隠したらしいってことしか・・・』
(そうそう。んで、それ聞いた後に「あんたにも知らねぇことってあるんだ?」ってからかったんだよな。俺が。)
『流石に俺も全知全能の神様じゃァないんでね。』

そう言って苦笑し、相棒は言葉を切った。
一護も目の前に意識を戻して浦原の続きを待つ。

「持ち帰って欲しいのは『崩玉』というこれくらいのカタマリっス。」

浦原が見せたのは右手の親指と人差し指で作った円。
その手で自身の胸の中央をポンと叩き、浦原は言葉を続けた。

「そして崩玉は、かつてアタシが流魂街でまだ赤子だった朽木サンの魂魄に埋め込んだもの。」
「なっ・・・」

一護が息を呑む。

ルキアを連れ戻せば一緒についてくる。その理由は分かった。
彼女の魂魄に崩玉が隠されているなら、もちろん移動も共にするだろう。
しかしそんなことではなくて。

『あんな危険なもの、まさか嬢ちゃんの中に隠されてたとは。』

その事実に驚きを隠せない。

「断ることも出来ただろうキミへの助力もこれが理由です。 キミが朽木サンを連れ戻すことでアタシは崩玉を尸魂界に置いておかずに済む。」
「でもわざわざ俺にその話をしたってことは・・・」

別に浦原が崩玉のことを教えずともルキアが帰ってくることで崩玉もそうなるならばこの話には何の意味もない。
つまりは。

「ルキアの中にそれがあるって知ってる誰かがいて、ソイツに取り出されちまうって?」

別に誇るわけではないが、彼の相棒ですら知らなかった崩玉の隠し場所を知っている者が尸魂界にいると?
どうにも考えにくい仮定だ。

そんな感想を持つ一護に、しかし浦原は「そうです。」と答えた。

「アチラには藍染惣右介という男がいます。 彼はまさに“聡明なる愚者”。力を求めて崩玉の存在にたどり着けるであろうただ一人の人物です。 ・・・調べれば、崩玉が誰かの魂魄に埋め込まれたことなど結構簡単にわかってしまうもの。 そしておそらく、あの男の実力なら朽木サンがそうだということも今や突き止めてしまっているでしょう。」

自嘲気味に笑う浦原。

「だからアタシは、あのとき朽木サンに義骸をお渡ししたんです。 入った死神の霊力を分解し続ける義骸を、ね。 これはある種の賭けでした。 アタシが作った義骸によって朽木サンの魂が尸魂界から捕捉不可能な人間のものになるのが先か、 それとも現世への長期滞在・死神の力の譲渡という大罪を利用されて藍染に手を打たれるのが先か・・・と。」

言い終わった浦原は静かに目を閉じ、顔を伏せる。
それはまるで断罪を待つ咎人のようだった。








「そっか。」

しかし浦原に向けられたのは糾弾の声でも侮蔑の視線でもなく、そんな軽い言葉だった。
浦原が顔を上げて、立ち上がった一護を見る。

「黒崎サン・・・?」
「アンタがルキアに渡したおかしな義骸。そして簡単に応じた俺への助力。 謎は全て解けたってところかな。まぁ、本当に全てってわけでもないんだろうケド。」

最後の方は口の中だけで呟くようにして一護が納得したような表情をつくる。

(つーか。浦原ってルキアが好きだから色々やってたわけじゃなかったんだな。)
『予想は大ハズレ。』
(あんたが予想したんだろ。)
『お前も信じてたけど?』
(・・・黙秘権を行使します。)

「黒崎サン。・・・キミはアタシのやったことを責めたりしないんスか?」

聞こえてきた浦原の問いに一護は苦笑を返した。

「そりゃァ崩玉を作ったことから始まって、それをルキアの中に隠したことも、さらにあんな義骸のことも、 色々言いてぇ事が無いわけじゃねーけどさ。それは俺が責めていいことじゃないと思う。だから・・・」
「だから?」

続きを促す浦原に向けて、一護は鮮やかに笑った。
魂の輝きとでも言うのだろうか。
万人を惹きつける、そんな笑みで。

「俺がちゃーんと全部取り戻す。そんでアンタはルキアに思いっきり怒られろ。」

ただの言葉。
それでも、浦原はその言葉を信じられた。
理由はない。―――否、この子供だからか。

痛いくらいに強い光を放つ魂をもった子供を前に、浦原も自然と笑って返していた。

「そうっスね。思いっきり朽木サンに怒られるとしましょう。」




















オマケ〜そしてその後に〜



「もしかして虚が俺の家を襲ったこともアンタの仕組んだことだったり?」

ギクリ

「どうかしたか?浦原。」
「いえ・・・あの。黙秘権行使しても良いっスか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・シメる。」
「一心サンも許可したことなんであの人もどうぞ。」
「ほぅ・・・それなら後で親父もシメる。だけどアンタにやる分が半分に減るわけじゃねーぞ?」

ニッコリ

「こ、恐いです。目が笑ってませんよ、黒崎サン・・・」
「それが?じゃ、覚悟は良いな?」



―――ご愁傷様。・・・自業自得?






















前回とは逆の立場(笑)

浦原さんの暴露大会でした。

・・・って、まだ隊長だったこととか話してないよ。

つーか死神だったってことすら。わお。

とりあえず誤解は(浦原さんの知らないうちに)解けたから良いとするか。

あ、「ヤクソク」は最後の一護の口約束のことです。取り戻す云々のトコ。

一護が浦原さんをノシちゃったのは、“ソレ”のせいで妹二人が怪我したからですよ。












BACK