ザッと地面を踏みしめる音。
霊圧は感じられないがその代わりに「人」の気配。
自分の店の前で店員達と待っていた浦原が彼の存在を視界に捉えた。

「どうです、傷の具合は?」

問いに、傷跡を見せ付けるようにして一護が笑う。

「全快っ!」
「結構!」

パチン!と軽快な音を立てて扇子が閉じられた。



(左手で扇子扱えるヤツって凄いよな。)
『・・・・・・・・・・・・』

妙なところで感心する一護はこの際なかったことにしておこう。












シラザルモノ











「親御サンには断ってきましたか?」

これから十日間泊り込みで勉強会をするに当たって、一護の高校生という立場上、 当然といえば当然の質問を浦原が口にする。
それに一護は肩にバッグを掛け直しつつ「あァそれか?」と視線を向けた。

「親父には友達の家に泊まるって言ってきた。」

(なーんか複雑そうな顔してたけどな。)
『それはアレだろ。親父さんはある程度知ってる・・・・んだから。』
(あ、そうだった。)
『忘れてたのかよ。』
(普段は意識してねぇだけだ。)

自分の返答に浦原がほんの数瞬口を閉じた間、一護は頭の中で相棒と言葉を交わす。
と、浦原が扇子で口元を隠したままポツリと零した。

「なんか・・・処女の外泊の言い訳みたいっスね・・・」

(処女ですから。)
『処女で童貞だしな。』
(・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁとりあえず、)

「一発喰らうか?」

なにやら大変聞き捨てならない単語を聞いたと一護は笑顔で拳を握ってみせた。

「やだなぁ冗談っスよ。・・・さ、そんじゃ始めましょかね。」
「あぁ。」

背を向けた浦原に一護が応える。
そして―――

「よろしくお願いしまーす。師匠センセイ?」



ッカン



ちょっとアレな言いように、少しおかしな下駄の音が響いた。

「キスケさん・・・?」
「店長?」

お子様型店員二名に疑問符付きで呼ばれ、浦原が苦笑い。
何でも無いと言ってから後方の一護に視線を向けた。

「こ・・・こちらこそ、よろしく。」













浦原に案内されて屋内に入り、一護は廊下を歩いていた。
外観を見事に裏切る広さを持った家――否、屋敷に内心「さすが・・・」と思う。
と、ある一室の前で数歩先を進んでいた浦原が歩みを止めた。

「それじゃァ黒崎サン。十日間、この部屋を使ってくださいね。」
「ありがとうございます。」

一護が礼を返すと浦原が「オヤ。」と少しばかり驚いた顔をした。

「ん?何か俺、変なこと言ったか?」
「いえ。そうじゃないっスよ。ただ、今時きちんとお礼言うなんて随分と珍しいなぁって。」

クスリと浦原が微笑む。

「そっか?当然の事じゃねぇ?」
「フフ・・・そうっスね。それでは夕食の時にまた呼びに伺います。」
「ああ。」

そうして浦原が踵を返すが「忘れてた。」と言って再びこちらに向き直った。

「別に今じゃなくてもいいんスけど、一応言っときますね。 これからの予定ですが、まず明日から約五日かけてキミを死神に戻します。 そして残りの時間で戦い方・・・というよりもその覚悟を学んでいただきます。・・・よろしいっスね?」
「おう・・・って、明日から戦い方の訓練でいいぜ?」
「はい?きちんと聞いてました?まずキミを死神に戻さないと。」

そうしないと何も始まらないでは無いかと言う浦原に一護はニッコリ笑って「大丈夫。」と告げる。

「それは明日、ちゃーんとわかるから。」
「・・・ま、良いですけどね。それじゃ、ひとまずこれで。」
「ん。じゃぁまた。」

何が大丈夫なのやらと首を傾げる浦原の背を見送って一護はその部屋の襖を開いた。



『見せるんだ?』
「センセイ、だからな。」

そう呟いた一護の声は本人達にしか聞こえることはなかった。






















実は浦原さん、一護に言いくるめられてます(惚れた弱みだね☆)


・・・まぁそれにしても。本誌ネタバレが微妙に(笑)

わかる人だけ苦笑でもしてやってください。












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