血は止まらなくて、目の前が霞んでくる。
でも未だ雨が降っていることはわかった。
髪にも頬にも、手にも足にもソレが感じられたから。


雨は嫌いだ。


倒れている俺のすぐ近くで下駄の音が止む。
途切れる、冷たい感触。


雨が止んだ 気がした。












シロイセカイ











無人の街。

高層ビルが乱立する世界に一護は立っていた。



「お前が此処に来るのって結構久しぶりだよな。」

いつもよりクリアに聞こえる声。
よく知った人物の、しかし滅多に見ない姿を見て一護は苦笑した。

「確かに。小学生ンときは何かあるとすぐに此処に来てたような気もするけど、最近はあんまり・・・」
「それだけお前が安定してる証拠だろ。」
「だといいけど。」

一護の目の前にいるのは自分と同じ容貌の青年。
ただし眼球の配色は逆転しており、纏っている死覇装も黒ではなく白いものだった。
その白を纏った彼が側に歩みより、一護の頭をわしわしと撫でる。

「うわっ!ちょ・・・やめろって!」

高校生にもなって未だに子供扱いされたことに一護の顔が赤く染まる。
そんな様子を見て面白がるような、しかし見守るような笑顔のまま白い彼は一護に告げた。

「“だといい”じゃなくてそうなんだよ。此処にいる俺が言ってんだから。」
「あーはいはい!そうですね!その通りですっ!」

数歩下がって白い相棒のもとから逃げ出した一護は彼を睨みつけつつ乱れた髪を直す。

「ったく、俺はもう子供じゃねーんだから!」
「子供だよ。あんな無茶までして。」
「うっ・・・」

白い彼が言葉を詰まらせる一護の胸の辺りを拳で軽く小突いた。

「ここ・・・お前の霊力なら死ぬことはねぇけど痕は残るぞ。先刻も言ったが。」
「まぁ死ななければオッケーっつーことで。」
「オイオイ。それでも怪我すれば痛ェだろう?」
「昔此処で修行してた時の方が痛かったように思うけどな。」
「それはちっせーお前が弱かったからだろーが。」

そして白い彼は一護から視線を外さずもう一人の人物に同意を求める。

「なぁ斬月さん。」
「確かに・・・今でこそ私を屈服させているが、目覚めたてのときは剣すらろくに握れなかったな。」
「・・・小学生にそれをさせようってのが無理な話だろ。普通は。」

現れた黒衣の男に一護は半眼で返した。
そんな一護に男―――斬月は人の悪そうな笑顔を向ける。

「普通は、だろう。剣を持って一月ひとつきもせんうちに卍解まで至った子供が言うセリフではないな。」
「それまでその子供をしごきまくった大人が言うセリフでもないと思うぞ。」

それから大きく息を吐いて一護は「話がそれたけど。」と言って先を続けた。

「ま、一応は予定通りに進んでるみてぇだから良しとしますか。・・・利用されてるけどな。」
「利用?・・・あぁ、浦原のことか。」

相棒の言葉に一護は「そう。」と同意を示す。

「何となく俺のこと利用しようとしてるよなーとは思ってたし、 だからこそ尸魂界へ行く準備もしてくれるだろうとは思ってたけど・・・」

自室でのことを思い出し、一護は肩をすくめる。

「直にあの目ぇ見たらやっぱ利用されてるんだなぁ俺・って実感しちまった。」
「それでいいのか?利用されるって・・・」
「別に良いよ。こっちだって利用するんだし。・・・それにウザくなったらやめるしな。」
「んじゃいいか。」

それから「でもお前って結構腹黒いよなぁ。」と言って白い彼が笑う。
一護の方も「お前譲りだよ。」と眉をしかめた。

と、そこで一護が突然気づいたように口を開いた。

「あ・・・そろそろ俺帰るわ。なんか目ぇ覚めそう。」

見れば、その体が徐々に薄れていっている。
両手の輪郭がほとんど判らなくなるのを見て、一護は前に立つ二人に目をやった。

「じゃあな相棒、斬月のオッサン。」
「おう、またな。」
「ああ。」

二人が言い終わるのと同時。
一護はその世界から完全に消え去った。

そのあと、一護の姿があった所を見つめたまま白い彼が口を開く。

「やっぱお前は甘いよ、一護。」
「そこが一護らしい所だろう。」
「まぁね。」

斬月に短く返し、白を纏う彼は姿を消した。
一人きりになって、斬月は微かに、そして優しく笑う。

「私から見ればどちらもまだまだ甘いがな。」

そう言い残し、黒い影も無機質な世界からいなくなった。






















一番大人なのが斬月。その次が白い彼。

一番子供なのが一護。でも一番大人だったりするのも一護。












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