「本来なら私の仕事なのに・・・すまぬな、一護。」
虚を倒してから帰る途中、ルキアがそうこぼした。 その表情は一護に迷惑をかけて申し訳なく思っていると言った感じで。 一護はそんな彼女に顔を向け、ふと小さな笑みを浮かべる。 「別にかまわねぇよ。出来ねぇことをやれって言われても困るけど、 こういうのは俺にとって“出来ること”の範疇に入ってるんだし。 それにすまないと思うんだったら、ルキアはまず自分の回復のことを考えるべきだぜ?」 (これは・・・慰めてくれているのだろうな。) 彼の言葉にルキアは少し気持ちが軽くなる。 「そ、そうか?・・・ありがとう。」 自分の口から出た只の言葉だが、彼に対して言うものは 何だかとてもくすぐったいものに感じられた。 カレノリユウ
ルキアが一護の家・・・というか部屋に居候するようになってから数日過ぎた頃、
やっぱり気になるということで彼女は一護に訊いてみた。
何故おぬしは自身の存在を隠すのか・・・と。 すると一護はただ「束縛されたくないから。」とだけ答えた。 「束縛・・・?どういうことだ、一護。」 意味がわからずルキアはたずねる。 すると一護は如何言うべきか僅かに迷いを見せた後、苦笑を浮かべて口を開いた。 「だって珍しいだろ?俺みたいな存在って。 死神に見つかれば、きっと何かちょっかいをかけてくる。 そのせいで自由に動けなくなって、 護れた筈のものが護れなくなるのは避けてぇんだ・・・」 (おふくろが死んだとき、死神は間に合わなかった。俺はそうなりたくない。) 確かに、とルキアは思う。 人間でありながらあまりにも大きな霊力を持つ一護。 道具も何も使わず自分の意志だけで魂魄を体から抜き、 それだけではなく、斬魄刀を持った死神になれる人間。 こんな存在を知れば、尸魂界が彼を放っておくわけが無い。 良くて、一護には常に監視がつくか、 代わりに自分のように護廷十三隊のどこかに所属し、上に従わなくてはならなくなる。 悪ければ、一護を不要なものとして彼を襲う輩が出るかもしれないし、 技術開発局もしくはあの十二番隊隊長個人に研究材料にされてしまう可能性だってある。 どちらにしろ、一護はその身を自由に出来なくなってしまう。 「そうか・・・そうだな。当たり前のことを聞いてすまなかった。 ・・・ところでもう一つ気になる事があるのだが・・・訊いてもかまわぬか?」 そう。ルキアには一護に関してもう一つ分からないことがあった。 「ん?答えられる事ならいいけど・・・」 「一護。おぬし、どうしてそんな力を持っているのだ?」 死んで死神になったわけでもなく、かと言って死神の誰かから力をもらったわけでも無く。 なぜ一護は自ら魂魄を抜き、死神になれるのか。 その問いに、一護はどう答えれば良いか先刻よりも悩んだ表情を作る。 「・・・う〜ん。上手く言えねぇかも・・・・・・。 簡単に言えば、俺の中に住んでる俺の相棒ってやつが最初に話しかけてきてさ。 そいつに俺の斬魄刀―――斬月の事とかいろいろ教えてもらってな。それでまあ今の状態に、と。」 9歳だったあの時、相棒の存在を知り、力が欲しくないかと訊かれ、 護る為の力が欲しいと答えた一護に彼は斬月を引き合わせた。 一護は二人から様々なことを学び今の状態に至っているのだが、 それを誰かに説明するというのはたいそう困難で、時間も掛かりそうなことだった。 「なるほど。信じられない話だが、現に目の前にあることだし・・・本当に、不思議なことだ。」 ルキアは静かに呟く。 「俺もそう思うよ。」 苦笑する一護。 「だな。いろいろ訊いて悪かった。」 「いいや。黙っといてくれるんだったらそれでイイって。」 眉間に皺を寄せたまま笑う。 ルキアは、出会ったのが太陽色の髪をもつこの少年で良かったと、 何度目になるか分からないが、そう思った。 護りたいものを護る為に。・・・それが彼を動かす全てなのだろう。 純粋で一途なその思いこそが。 |