日常じみた非日常。
訪れる変革の刻。 あらゆる騒動を引き連れて物語が動き出す。 カノジョトノデアイ
「もういい!俺は寝る!!」
ドスドスと足音を立てながら階段を上る一護。 夕飯を抜くことになるが一食ぐらい平気だし、 もしかすると遊子が己の分を持ってきてくれるかもしれない。 寝るとは言ったがまだ風呂にも入っていないので、まずは明日の予習をするべきか・・・。 そんなことを考える一護に声が届く。 『虚の気配がするけど、どうするんだ?』 頭に直接響いてくる声。 あの日、9歳だった一護が出会った自分の相棒の声だ。 (わかってる。でもどうせ死神がそこまで来てるんだろ?) 口には出さず心の中だけで、そう返す。 一護の精神世界の様な所に住まう相棒には思うだけで会話が成立するからだ。 『まあな。それじゃあ今回は傍観に徹するのか?』 (とりあえずは、な。) 一護はドアを開けて部屋に入る。 そして、目の前を通る黒揚羽・・・ 「・・・?黒揚羽・・・?何だコイツ?どこから入って―――」 黒揚羽の次に目に入ったのが、黒い着物を纏った少女の姿。 (死神・・・か。) 彼から死神についても教えられたため、一護にもある程度の知識はある。 少なくとも、その姿の特徴を言えるくらいには。 「近い・・・!」 少女が気を引き締めた様子で言う。 (ここは見えないフリをすべきか?) 心の中で自問する。 死神が見えるほどの稀有な霊力の高さから彼らに目をつけられるのはマズイ。 目をつけられて、死神に己のことがバレるのは勘弁願いたい。 相棒と、そして斬月という自分の斬魄刀に出会ってから 死神と同じ力を持つようになった一護のことが知られれば その後どうなるかわかったものではないからだ。 (やっぱり無視しとこう。) そう決めた矢先、 ウォオオオオオオオォォン! 聞こえる、声。 (虚か!それもかなり近い!) しかし死神の少女は今の声に気づいていないようだ。 (どうしたんだ?なんで気づかねぇんだよ!) 一護の霊力は大きすぎて抑え付けることが困難なほどである。 ゆえにその力はいつも垂れ流し状態で、他者が霊的なものを感じ取るのを阻害してしまう。 力を垂れ流す本人である一護はこのような状況に出くわしたことなど無く、それを知っているはずもないので、 一護の力によって虚の気配を感じ取れないために行動を起こさない死神に内心焦りだす。 もしかしたら家族が襲われるかもしれないと。 (・・・ッ。くそ!) 「おい、あんた!この声が聞こえねぇのか!?」 ビクリと少女が驚いて一護の方を向く。 「貴様、私が見えているのか?」 「当たり前だ!そんなことより、あんたにはこの声が聞こえねぇのかと訊いてるんだ!」 焦りと心配によりきつい口調になる一護。 「・・・この声?」 何を言っている・・・といった様子の少女に痺れを切らして一護は叫ぶ。 「もういい!お前はそこに居やがれ!!」 そう言って扉を開ける。 ゴォオオオオオオオオオオオオォォン!!! さっきよりも大きくなった声。 ビリビリと空気が振動する。 「・・・ッ!?」 今度は少女にも聞こえた。 彼女はハッとして一護の背に声をかける。 「おい!貴様、行くな!止まれ!!」 しかし一護は足を止めない。 (仕方あるまい!) 少女は腕を振り上げ印を組んだ。 「縛道の一!塞!!」 「・・・ッ!」 腕を固定されバランスを崩した一護がその場で転倒する。 「てめっ・・・!」 「貴様はそこで大人しくしていろ!私が行く!!」 そう言って走り出す少女。 彼女が扉をくぐると同時にガチャンというなにかが割れる音と誰かの悲鳴が聞こえた。 「・・・!遊子の声だ・・・!」 妹の悲鳴に息を呑む。 家族を助けなければ・・・! 背中に固定された腕に力を込める。 ビキン! 不意に聞こえた音に少女が振り返る。 「よせ!何をしている!?」 一護はやめずに更に力を込め続けた。 ギシ! ベキン! 「やめろ!それは人間の力では決して解けん!!」 一護は力を込めつつも思う。 (それが解けるんだよ・・・俺には。) 「無理をすればお前の魂が―――」 バキィ!! 一際大きな音を立てて一護の腕が開放される。 バカな!!と驚きに目を見開く少女。 立掛けてあったバットを持って一護が走り出す。 死神である少女の前で一護自身の力を見せるわけにはいかないが、 せめて彼女が虚を倒すまでこの身を呈して家族を護らなければ。 一階に降りて来て一護が目にしたのは、怪我をして倒れる父と夏梨。 そして虚の手に握られている遊子の姿。 「はああああああああぁ!!」 怒りに任せて虚の方へ疾走。 伸びてきた虚の腕をバットで受けると鈍い衝撃が伝わる。 (折られた!?) 間を空けずに第二撃。 (やばい!避け切れねぇ!) 一護が傷つく覚悟で力を解放しようとしたその時―――・・・ バギィン! ギャァァアアア! 硬い何かが切られた音とそれに続く虚の叫び声。 (・・・え?) 目の前には虚ではなく黒い着物。 とさり・・・と崩れ落ちる少女。 その姿は血まみれで。 (庇われた・・・・・・また。・・・今度も!) ドクン 『オイ、一護!お前、こいつの前でやる気か!?』 頭の中で相棒が声を荒げた。 (俺は、護るためにこの力を得たんだ! 死神だろうが人間だろうが、目の前のやつが傷つくのは見たくねぇ!!) 虚を睨みつけて一護は叫ぶ。 「斬月!!!」 目を焼くほどの閃光が迸った。 それは一瞬のことで、次の瞬間現れたのは死神が纏う衣装である死覇装を身につけた一護。 その手には柄も鍔もない大刀を持っている。 「な・・・に・・・?」 紛れもない死神姿の一護を見て少女は目を見張る。 そして一護の姿は掻き消え、続いてドンという衝撃音と共に 一護の振るった刃―――斬月が虚の仮面を縦に切り裂いていた。 その一撃で虚が破片となって消える。 一護はそれを確認した後少女に近寄り、そして問うた。 「なあ、あんた名前は?」 「へ!?あ、私は朽木ルキアだ。」 「そ。俺は黒崎一護。」 そう話をしながら一護はルキアの傷口に手をかざす。 「な、何を?」 何をするのかという問いに一護は「傷を治すだけだ。」と冷静に答え、さらに続けた。 「その代わり・・・なんて言えねぇが、俺のことは見なかった事にしてくれねぇか? このことはあんたら死神には知られたくないんだ。・・・・・・頼む。」 一護が語るうちにも傷はどんどん癒えていく。 ルキアはその速さに驚きながら見つめつつ、溜息。 「・・・わかった。理由は知らぬがおぬしなら害はないだろう。」 ルキアがそういうと、一護はすこし表情を緩めて僅かながらも笑みを零した。 「・・・サンキュ」 「・・・!」 (・・・なにドキリとしたのだ!?私は!か、顔が熱いぞ!?) 内心の動揺を隠すようにしてルキアは立ち上がる。 「傷を癒してくれたこと、感謝する。一護。 ・・・ああ、それと、これを渡しておく。記憶を入れ替えるための道具だ。 家族に使ってやってくれ。すまないが、彼らの傷の事も。 思ったより霊力が残っていない様なのでな。・・・・・・では。」 治療のために跪いていた一護も立ち上がり、ルキアから手のひらサイズの道具を受け取る。 「ああ。じゃあな。」 そうして二人は分かれた。 |