「だめ!一護!!」
それが、俺が聞いたあの女性の最後の声だった。 ハジマリノウタ
6月17日、雨。
母ちゃんが死んだ。 オレをかばって。 「か、母ちゃ・・・」 ズルリ。 「あ・・・」 真っ赤に染まったオレの両手。 真っ赤に染まった母ちゃん。 「あ、あぁ・・・あ・・・ぁぁああああああああああぁ!!!」 嫌だ! 怖い! どうして!? どうして! どうして!! どうして!!!!! (「どうして」という疑問は状況を“否定”する証。叫ぶほど・・・ほら、全てを拒絶してしまう。)(失くしてしまう。) (冷たい雨に流されて、薄れていく赤は何を意味する?)(赤。紅。アカ。透明になって消えていく。) (心が凍る。心が消える。全ては冷たくなっていき、・・・そしてポッカリ穴が開く。) (その穴を埋めるモノは?)(埋める者、は・・・?) 『虚の仕業だ・・・』 ドクン 声が聞こえた。 「だれ!?どこにいるの!?」 ドクン 心臓の音がうるさい。 『ここさ。ここ。お前の中だよ。』 ドクン 「・・・え?」 そしてオレはそこにいた。 無機質で、真っ白な世界。 「・・・どこ?ここ・・・・・・母ちゃん?」 誰もいない、静かな空間。 ただ無音の雨だけが降り続く。 「ねぇ!だれかいないの!?」 一人は怖い。 独りは怖いよ! 「こっちだ。」 声のした方―――オレの後ろに人影。 「だれ!?」 見れば、オレと同じオレンジ色の髪。 白い着物を纏った青年。 「誰・・・だって?俺はお前の相棒さ。」 「あい、ぼう?」 「そ。俺はお前で、お前は俺。そして相棒。」 白い青年はオレの前まで来た。 「お前、自分の母親がどうして死んだのか知りたいんだろう?」 ドクン 脳裏によみがえる、先刻の惨状。 雨。 川原。 そして―――血まみれの、母。 「・・・ッぁ。し、知ってるの!?」 青年につかみかかるようにして尋ねる。 「っと。・・・ああ。お前の母親を殺したのは虚だ。」 雨の中、血に染まった両手を見ながら聞いた声と同じ“虚”という言葉。 「ホ、ロウ?」 「虚は霊的濃度の高い魂を好んで喰う奴等さ。お前みたいな魂をな。」 「オレ・・・みたいな?」 ドクン ドクン ドクン 息が出来ない。胸が苦しい。 それじゃあ母ちゃんが死んだのは・・・ 「オレの・・・せい?」 オレが母ちゃんを殺した? 「違う。」 即座に入る否定の言葉。 「あの虚が狙っていたのは初めから母親の方だったんだ。 ・・・お前より彼女の霊圧の方が高かったから。」 「え?」 「お前は気づかなかっただろうが、 彼女はお前の高すぎる霊圧を自分の力で押さえつけ、隠していたんだ。 いざという時に、息子ではなく自分が狙われるようにと。」 ・・・そうだとしても、オレがあの時少女のもとへ行かなければ。 青年は考え込む一護を見つつ続ける。 「とは言っても、お前はいろいろ考え込んじまうだろうし、 自分が母親を殺したんだって感じるだろうな。でもな、その前に、一護・・・」 「な、なに?」 応えると青年はニィっと笑った。 「強くなりたくはないか? 力が、欲しくはないか? ・・・あいつを、虚を倒すために。 お前にはその素質があるんだ。 それにお前は後に残った大切なものを“護る”必要があるだろう?」 よみがえる父の言葉――― “一護”って名前は「何か一つのものを守り通せるように」という意味でつけたんだ ―――・・・オレはもう失いたくない。 護りたい。 大切な人を、人達を。 そして両手に抱えられるだけじゃなくて、もっともっと。山ほどの人を。 「うん。力が欲しい。護れる力を。・・・ 教えて。オレは何をすればいい?」 雲に隙間が生まれ、世界に風が吹いた。 全てはここで終わり、そしてここから始まる。 |