《伯父様(オジサマ)と俺。01》





尸魂界でのルキアの処刑騒動に関わって以来、俺には他人に言えない悩みがある。
正確には一連の黒幕である藍染惣右介を目にしてから、と言うべきか。
あの男の容姿―――癖のある茶色い髪と、表情の所為で気付きにくいけれどもややタレがちな双眸。
きっと『五番隊隊長』をやっていた時には眼鏡越しに優しい視線を作っていたりもしたのだろう。

……、誰かに似ていた。
そりゃもう、俺のよく知る人物に。

「…………。」

現世に在る実家の一階、リビングの壁にこれでもかと言わんばかりの迫力と派手さを伴って飾られている大きな写真に目をやった。
そこには俺がまだ十歳になっていなかった頃の母親の姿が写っている。
真咲フォーエバーだなんて、いつもの如く父親のセンスを疑ってしまう写真への落書きを視線でなぞり、俺は溜息をついた。

そう。
この悩みは誰にも訊けない。
そんなまさか、と自分でも思っているが、もしかして・・・と同時に考えてしまう。
親父は変人だが一般人だし、知っているはずないだろう。
元死神の浦原さんなら知っているかも知れないが、もし俺の予想が正しいだなんて認められたらどうすればいいのか。

再び溜息をつく代わりに、もう一度親父の思いの丈をぶつけた落書きを頭の中で繰り返す。
真咲フォーエバー。
俺の母親の名は真咲。
黒崎一心と結婚したから、黒崎真咲。
そして俺の記憶違いでなければ、彼女の旧姓は『藍染』と言う。







いや、そんなまさか。

(でも髪も目もみょーに似てるんだよちくしょう!!)
























《伯父様(オジサマ)と俺。02》





井上が虚圏に誘拐されました。以上。

じゃなくて。
護廷の山元総隊長には反対されたけれども、俺達現世メンバーは井上を追って虚圏へ向かうことに。
尸魂界へ向かった時と同じくそれをサポートしてくれるのは浦原さんだ。

黒腔と言う破面達が使う通路を開いてもらい、虚圏へ。
尚、穿界門とは違い、黒腔は足元が固定されていない。
自分自身で霊子を固めて足場を作り、その上を走らなければならないのだ。
勿論足を踏み外せばどことも知れない空間へ放り出されることになる。
そんな注意を受けた上で俺とチャドと石田の三人は黒腔の中へと飛び込んだのだが―――

「……ッ!」
「一護!」
「黒崎!」

マズイ、と思った時にはもう遅い。
霊子の制御を誤り、上とも下とも右とも左ともつかない方向へ落下する。
俺達三人の中で最も霊子の制御が上手い石田は慌ててこちらに手を差し出そうとするも、このままでは向こうが俺を助けるどころか、俺が相手を巻き込む形になっちまう。
だから俺は石田の手を取らずになんとか霊子の制御を復活させようと試みながら叫んだ。

「先に行け!」
「しかし!」
「いいから!!」
「……くっ」

短く呻り、石田が背を向けて走り出す。
チャドも心配そうな目を向けてきたが、笑って見せると前を向いて石田に続いた。

……さて。
俺だってこのまま現世でも尸魂界でも虚圏でもない場所に放り出されて終わる気は無い。
不完全ながらもなんとか足元に硬い感触が復活し始めて、それを足場に移動を再開する。
方向はチャド達が向かった後を追えばいいから問題ないだろう。
そして俺は走り続け、黒腔を抜けた―――。









「…………あ。」

黒腔を通り抜けた先。
俺を待っていたのは石田とチャドの二人……ではなく、どうしてこんなことになったのか。

あの足場作り失敗の影響(たぶん)で二人とは別の場所に到着したらしい俺の目の前には、長い机、ずらりと並ぶ椅子、そしてその椅子に座る十人の破面達がいた。
破面の中には見知った野郎――水浅葱の髪と目をしたグリムジョー――がいたから、ひょっとするとこの集まりは十刃なんだろうか。
で、十刃が囲むテーブルの、俺からすれば一番遠い所に座る男が一人。
破面達と同じような白い服、くせのある茶色い髪、余裕の笑みを湛える口元―――護廷十三隊五番隊の元隊長、藍染惣右介がそこにいた。

「おやおや、どうせ井上織姫を追って虚圏には来るだろうと思っていたが……まさかこんな所に現れるとはね」

死神である俺の姿を見ていきり立つ十刃を片手で制し、藍染はいくらか楽しそうに言う。
その傍には俺が来たことに気付いて瞬歩でやって来たのか、それとも元々近くにいたのか、市丸ギンと東仙要もいた。
特に市丸は「おやまぁ」と人間を騙すことが心底楽しみである狐のような顔をして事の成り行きを見守っている。

この場には俺、一人。味方無し。
あちらには総大将と側近(?)の死神二人に破面のトップ10が勢ぞろい。

……つまりは、だ。
簡単に言っちまうと絶体絶命、ちょーピンチ、と言う訳でして。
たぶんこの時の俺は脳のどこかがオーバーリミットで変な方向に働いていたのだろう。
斬魄刀を構える頭もなく、正面の藍染から視線を逸らせずに呟いていた。

「おじさん?」
「ん? できれば『おじさん』ではなく『惣右介さん』か男子高校生らしく『伯父貴』と呼んでくれないかな?」

藍染が微笑み、東仙が息を呑み、市丸が目を見開いて、十刃達も後者二人のどちらかによく似た反応を示す。
そして「はぁ!?」と誰かが大声で叫ぶのに紛れ、俺は半分以上思考が止まった状態のままもう一言だけ呟いた。

「マジですか」







私をおじさんと呼ばないで。

「ちなみに私の方が兄だから」

だ、そうです。
叔父さんじゃなくて伯父さんか。