僕らはあの日、何よりも尊い約束をした。
ある時、ある所に二人の男の子がいました。
その二人の顔はとてもよく似通っていて、背丈も全く同じなのですが、一方は眩しいほどのオレンジ色の髪で、もう一方は雪のように真っ白な髪をしています。 似ているのに似ていない二人が立っていたのはアスファルトで固められた地面や木の板を貼った床ではなく、コンクリートとガラスで作られた場所―――なんと高い高いビルの壁面でした。 しかしその世界は名実共に二人だけの特別な場所で、重力さえも他の人達がいる世界とは違っていたため、二人がその場から落ちて怪我をするようなことはありません。 足元がビルの壁面だと言うことはつまり、二人の頭上に広がるのは何処までも続いているように見えるビルの森。 空は真横に横たわっています。 普段なら突き抜けるように蒼い色をしている空ですが、今は残念なことに厚い雲に覆われ、いつ雨が降って来ても可笑しくありません。 そんな空の様子と同調して、オレンジ色の髪の男の子は膝を抱えて蹲っておりました。 顔を伏せて肩を震わせる男の子に、もう一人の白い髪の男の子はどうしていいのか解らないというように眉根を寄せて困惑気味の表情をしています。 「なあ、」 白い髪の男の子は地面に膝を付いてオレンジ色の髪の男の子に顔を近付けます。 出来るだけ優しく肩に触れると、蹲っていた身体がほんの少し、ピクリと動きました。 「いちご。」 いちご、とはオレンジ色の髪の男の子の名前です。 舌足らずな声で白い髪の男の子はそうして何度も何度も「いちご」と呼びました。 「いちご。かお、あげろよ。こんなとこで泣いてたってしょうがないだろ。」 「・・・泣いてない。」 ぐず、とオレンジ色の髪の男の子が鼻を鳴らすと同時に、とうとう空から雨が降って来ました。 頬に冷たい雫を感じながら白い髪の男の子はくしゃりと悲しげに表情を歪めます。 泣いてるじゃねーか、という呟きは小さすぎてオレンジ色の髪の男の子には聞こえなかったことでしょう。 「しょーがねえなー・・・」 む、と口をへの字に曲げて白い髪の男の子はオレンジ色の髪の男の子の頭をがしりと掴みました。 オレンジ色の髪の男の子はびっくりして、白い髪の男の子の成すがままに顔を上げられてしまいます。 「泣くな。」 「ないて、なんか・・・」 ない、と続けるオレンジ色の髪の男の子の目からはぽろぽろと透明な液体が溢れていました。 琥珀色の大きな瞳が涙で潤んでとても綺麗でしたが、大切な男の子が悲しんでいるという状態に、白い髪の男の子が喜べるはずもありません。 白い髪の男の子はオレンジ色の髪の男の子にいつだって笑っていて欲しいのです。 だから白い髪の男の子はオレンジ色の髪の男の子と視線をしっかりと合わせ、絶対に聞き間違えないようにはっきりした声で言いました。 「おまえのことは、おれがぜったいまもってやる。どんなこわいヤツからも、どんなこわいことからも、ぜったいぜったい、まもってやるからな。」 「ほん、とか・・・?」 「おう。ほんとうだ。」 白い髪の男の子がそう答えると、オレンジ色の髪の男の子が最後に一つだけ雫を落として、そして大きく目を見開くと、花が綻ぶような笑顔を見せました。 「あ、ありがとう。」 「いいんだ。おれは、おまえが笑ってりゃいいんだからな。」 オレンジ色の髪の男の子が目をキラキラさせながら笑い、白い髪の男の子は髪と同じく白い肌をほんの少しだけ赤く染めて、そっぽを向いてしまいます。 しかしそれはオレンジ色の髪の男の子が嫌いだから、なんてことは勿論ありません。 ただ少し、照れているだけなのです。 さっきまで雨が振っていた空は、今はもうオレンジ色の髪の男の子の表情と同じように、どこまでも蒼くきれいな色をしています。 その明るさに目を細めながら、白い髪の男の子は嬉しそうに微笑みました。 (おまえを傷つけるすべてのものから。ぜったい、まもってやるからな。) |