、純度100%












「藍染さん、脅すのはもうそのくらいにしてやったら?恋次達が可哀想だ。」

双極の丘で藍染惣右介の真意を悟った恋次に振り下ろされた凶刃。
それを漆黒の刀で防ぎながらオレンジ色の髪の少年が愉しそうに笑った。
少年の声に含まれるのは敵意ではなく、親しい者に対する感情。
恋次とその腕の中で守られていたルキアは現状と少年の声との矛盾に目を剥く。
少年は何を言っているのだろう。
どうして藍染は素直に剣を退き、微笑を浮かべているのだろう。
どうして少年はその藍染が差し出した手を取ってこちらを見つめているのだろう。

「一護っ!?テメェ、ルキアを助けに来たんじゃねえのかよ・・・っ!」
「だから助けに来ただろ?お前らが余計な怪我を負わねえように。」

恋次の掠れた声に対し、少年――― 一護は半分不思議そうに、そしてもう半分は面白そうに告げて口角を上げた。
偽りではなく、本心からそう感じているのだとチョコレート色の双眸が言っている。

「本当に君は優しいね、一護君。」
「優しいかどうか自分じゃ判断出来ねえけど、アンタがそう言うならアンタにとってはそう見えるんだろうな。」

藍染の微苦笑を受けて一護も笑う。
その様はすでに恋次達から興味が失せたことを示すもので、言外に「お前達は俺にとって取るに足らないものだ」と言われているように感じた。
しかしそう空虚感を覚えた恋次とルキアに気付いたのか、藍染が一護から視線を外して二人を見た。

「安心したまえ。一護君から見れば僕も君達もそこにいるギンや要も、皆似たような存在だよ。」
「は?どういうことだよ藍染さん。」

不思議そうな顔をして問いかけるのは一護。
藍染は斬魄刀を鞘に納めながら慈しむような瞳で少年を見つめ、君に自覚は無いようだけどね、と空いた右手でオレンジ色の髪を梳く。

「僕も阿散井君達も、君にとっては大切で、けれど同時にどうでもいい存在だということさ。」
「矛盾してるな。」
「そうだとも。でもそれが事実だ。君は今こうして僕の前に立ち、恋次君達を庇っているけれど、ここで僕が彼らを斬り殺したって君は眉一つ動かさないだろうからね。」
「あー・・・それは当たってる、かも?」

呟き、一護は恋次とルキアに顔を向けた。
希望から絶望へと叩き落とされたように悲惨な表情を浮かべていた二人を見て申し訳ないと思えないのも、藍染の言う矛盾の一つの現れなのだろうと考えながら。

「そんな顔すんなって。俺は元々こういう性質なんだよ。」
「君達が気付かなかっただけでね。」

一護の肩に手を掛け、藍染が勝ち誇ったように笑う。

「さて。それじゃあ一護君も来たことだし、さっさと用を済ませて此処から離れようか。」
「ああ。・・・で、藍染さん。肝心の道具は?」

天鎖斬月を無造作に地面に突き刺し、藍染に向かって一護が右手を出す。
これだね、と言う台詞と共にその手に乗せられたのは用途不明の円筒状の物体。
受け取った一護が恋次の腕の中からルキアを取り上げた。

「一護っ、何する気だ!」
「いち、ご・・・?」

声を荒げる恋次と立つ気力も無いらしい弱ったルキアを交互に眺め、一護はいつもどおりの少年らしい笑みを浮かべる。

「安心しろって。殺しゃしねえよ。どっちかって言うと危険物を取り除くんだから良いことだろうし。」

そう言って笑ったまま、一護は円筒状の物体のキャップらしき部分を外す。
すると右手は奇妙なものに覆われ、固そうな外見へと変化した。
同時に一護とルキアの周囲に湾曲した角か骨のようなものが出現する。

「へぇ、こうなるわけか。・・・んじゃま、遠慮なく。」

左手で吊り下げたルキアの胸へ一護の右手が吸い込まれた。
その光景に目を見開く恋次。
これかな、と呟く一護。
そうして少女の胸を貫いた右手が退かれて再び空気に触れた時、その指先は小さな球体を摘まんでいた。
ルキアの胸に空いた穴はすぐに塞がり、血も出ない。
しかしその奇妙な現象には興味が無いらしく、一護は不思議な色を宿す球体を光に透かすと無邪気な声で笑った。

「これが『崩玉』かぁ。綺麗な色だな。」
「気に入ったかい?」
「すごく。」
「それはよかった。」

小さな子供が硝子玉を覗き込んでいるような一護の様子に藍染は微笑し、ほら、と少年の両肩に手を乗せて促す。

「そろそろ時間だよ。行かなければ。」
「わかった。」

『崩玉』と呼ばれた小さな球体を懐に入れ、地面に突き刺したままだった刀を引き抜くと、一護はその促しに従って歩き出した。
数歩進んだところで恋次達を振り返ると、未だ混乱の中でどういう顔をすればいいのか分からないという顔に出会う。
ただしその顔には少年が今にもこちらに駆け寄って手を差し出してくれるような幻想を抱いてる様子が見て取れて、一護は内心「馬鹿だなぁ」と嗤った。

「恋次、ルキア。」
「一護、」
「一護・・・」

二人の目が「もしかして」と輝く。
それを見て一護は浮かべた笑みを更に深めた。

「ばいばい。」






















ナチュラルに狂ってる一護サンでした。











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