「ギ・・・ン・・・?」
その呟きが信じられなかった。 だって彼は知らないはずだ。 自分と共に歩んだ数年間を。 あの美しくも切ない年月を。 それなのにどうして、そんな目でこちらを見つめてくれるのだろう。 嬉しそうなのに、同時に泣いてしまいそうな顔を向けてくれるのだろう。 風が吹いて銀色の髪が視界を覆う。 けれども視線は外さない。 市丸ギンはしっかりと門の向こう側から現れたオレンジ色の光を見つめ続ける。 「いち、ご。」 「・・・っ!!」 あの日から欠片も変わらない光に思わず名を呼べば、いつしか何よりも大切になっていたその人が息を呑んで目を瞠った。 それから驚きの表情は徐々に笑みへと変換され、こちらに一歩、歩み寄る。 彼の後ろでは彼を引き留めようとする声や戸惑いの声が発せられたが、今の当人には届かない。 真っ直ぐな眼差しでこちらを見つめ、市丸もまた他のものには目もくれず彼だけを―――かつて共にこの地に生きた黒崎一護を見つめ続ける。 一護がまた一歩前へ。 まるでこれまでの長き空白を埋めるが如く、ゆっくりと縮まっていく距離に、先に我慢出来なくなったのは市丸だった。 「・・・っ、一護!!」 意識から一護以外の全てを弾き出したまま走り出す。 どうして転生前の記憶を覚えているのかなんて疑問はどうでもいい。 ただもう一度、彼の姿をこの目で見、彼にあの視線を向けてもらえるならば。 真っ白な亡骸。冷たい接吻。 市丸の心の奥底でずっと凍りついていたそれらが瞬く間に解け始め、別のものへと変わってゆく。 「一護!!」 「ギンっ!!」 互いを求めるように、渇望していた物をもう二度と離さないとでも言うように、銀と橙が混じり合った。 「いちご、いちごいちごいちごいちご・・・!」 「白の隊長羽織か・・・ちゃんと約束果たしてくれたんだな。」 「当たり前や!せやから、せやから一護も・・・!!」 傍にいて。もう離れたりしないで。 強すぎて声にならない願いに、一護が応えるかの如く腕の力を強めた。 「ギン・・・会いたかった。長かった。十六年間、ずっとお前のことを想ってた。俺が死んだら絶対会いに行こうって。だから死神になれるだけの霊力を持って生まれたことに感謝して、尸魂界じゃなく現世に人間として生まれたことに絶望した。ちゃんと生きて死ぬとこまで行かねーとお前に会わせる顔がないって思ってたし。・・・でも、会えた!!」 「い、ち・・・」 「ああもう泣くな。折角の男前が台無しだろうが。」 「ええねん。一護に嫌われへんのやったら、何でも。」 こつり、と額をつき合わせて市丸は笑う。 涙でぐしゃぐしゃになった笑顔だったが、それはとでも純粋で美しいものだった。 その表情が一護にも伝播し、そして。 「ただいま、ギン。」 「おかえり、一護。」 ―――ボクのところへ。
ハッピーエンドをキミと
|